三重県鳥羽市で海辺コワーキング!地元クリエイターのクロストーク

はじめに

「地方にクリエイターが求められている時代です」と言われるなか、日本各地にコワーキングスペースが増えています。2016年、三重県鳥羽市には住民の手により空き物件を1棟まるごと改修した「ギャザリングスペース KUBOKURI」が誕生しました。

移住者による飲食店と地元マスターが営むカフェが入居し、デスクスペースをシェアして働く人々が集まってきました。

町を拠点としたクリエイターの営みは、住むことから始まります。今回は1階コワーキングスペースに、地元クリエイターが集い、クロストークを繰り広げました。

こんな方へ

「海沿いの暮らしに惹かれていて、町に根ざしたクリエイティブに興味関心がある」あなたへ。ぜひ一度KUBOKURIを訪ねてください。三重県鳥羽市は、観光業と漁業の営みがあり、人口約18500人のコンパクトな海沿いの町ゆえ、活動が体感しやすい場所です。

メンバー

鼻谷年雄
ライター、ゲストハウス「かもめnb.」経営。三重県津市出身・鳥羽市在住。
梅田周平
ブロガー、カメラマン。三重県鳥羽市出身・同在住。
上村直也
介護サービス、地域情報サイト「SHIMAZINE」運営。三重県志摩市出身・同在住。
濱地雄一郎
ライター、IT導入コンサルタント。三重県南伊勢町出身・伊勢市在住。
佐藤創
地域おこし協力隊、アニメーション作家、東京都あきるの市出身・鳥羽市在住。

クリエイティブが町にできること

鼻谷 今日は、「クリエイティブが町にできること」というテーマで語り合いたいと思います。

まずは簡単な自己紹介から。僕は鳥羽に移住して4年目で、2018年の7月からKUBOKURI2階のシェアオフィスを利用しています。家をゲストハウスにしているため、落ち着いて執筆や事務をする場所がほしかったんです。

じゃあ、次はとなりにいる「周平くん」。写真はNGでしたね。

梅田 はい。日中、外を歩き回るのが難しい病気で、家の中で商品写真を撮影したりネットを通じて東京のメディアに記事を書いたりしてきました。

鳥羽で本格的に活動を始めたのは2018年の8月からで、「酒のもりした」さんの商品写真の撮影や飲食店のホームページ制作などをしています。

上村 介護志摩市の若者でつくる「おおきんな」という団体で情報サイト「SHIMAZINE」の運営と記事の執筆をしています。

鼻谷 上村さんと周平くんは鳥羽商船高専の先輩後輩でときどき、今日の会場になっているKUBOKURI1階のコワーキングスペースを使っていますね。濱地くんと阪本さんは、僕と同じように2階シェアオフィスに机を借りています。

濱地 サラリーマンを7年半やっていましたが、2019年4月に「エイチエムプロデュース」の名前で個人事業主として開業しました。ライター1本とは考えていなくて、企業の広報やITクラウドの導入も請け負っています。

鼻谷 阪本さんは伊勢志摩で30年余り活動されているベテランの写真家。詳しい話はのちほど。TobaChairs撮影担当の「はじめちゃん」こと佐藤創くんと市役所の重見昌利さん、KUBOKURIを運営する合同会社NAKAMACHIの濱口和美さんと筧佳人さんにもテーブルに着いてもらっています。司会は僕で、いつものように大越さんもフォローにいます。

発信すれば誰かが見てくれる

鼻谷 周平くんは、ブログとかSNSでよく地元のお店の紹介やイベント情報を発信していますね。

梅田 発信すれば誰かが見てくれます。投稿にコメントがついて、こんなものが鳥羽にある、鳥羽ってどこ?ってつながっていく。それなのにみんなの発信が足りない。鼻谷さんのゲストハウス「かもめnb.」も……。

鼻谷 不甲斐ないです(笑)。もっとやったほうがいいとは思いつつ。

梅田 意味があると思ってないからでは。僕のブログを見て、鳥羽のカフェに大阪のブロガーが来てくれたことがありますよ。僕にとってSNSは生活の一部だし、写真や動画が得意なのでやっていきたい。だけど別にうまい言葉や写真じゃなくてもいい。まず、やらないと効果もわからないですから。

大越 「やっていく」というのは、仕事にするということ?

梅田 お金にはならないですよ。

鼻谷 それならどうして?

梅田 僕はずっと家の中で顔の見えない相手と仕事をしてきたので、もっと人と関わりたい。それに町が衰退するのを見てきたし、何かと迷惑をかけていると思っていて。生まれた場所への恩返しです。

仕事とボランティアの整理

鼻谷 KUBOKURIのホームページFacebookページは最近、よく更新されるようになりました。あれは濱地くんがやっているんですよね?

濱地 僕の方から提案して投稿させてもらっています。いずれはこの1階スペースでイベントを仕掛けたいなと思っていて、その集客ツールに使えないかと。ライターの仕事は不安定なので、ほかのことで定期収入がつくれないか模索中なんです。投稿のネタは、結果的に花清水さんの新作ちゃんぽんに偏っていますが(笑)。

鼻谷 花清水さん、シェアオフィスと入り口が同じだからどうしても(笑)。

濱地 とは言っても、ふだんはKUBOKURIにいないことが多いです。鳥羽の浦村町で牡蠣の種さしを体験をしたり、多気町の酒蔵で酒造りを手伝ったり……。

鼻谷 僕は、三重の物産のPRを仕事にしていた会社員時代の濱地くんを知ってるけど、フリーランスになってますます活発になりましたね。でも、売り込みをしていると、ボランティアと仕事がごちゃまぜになってこないですか?

濱地 パソコンの中を「仕事」と「地域活動」でフォルダ分けしていて、予定が重なった場合はお金になる仕事を優先しています。地域活動はボランティアで、どこまでやるかが難しいですね。1つ言えるのは、情報発信は1人でやるよりチームでやったほうがいい。

鼻谷 発信役が1人に集中しがちですよね。

梅田 僕もそう思います。みんなができるようにして分担しないと続かない。

地域活動は自分を売り込む手段

鼻谷 はじめちゃんは、来年には鳥羽でアニメーション作家として開業する予定ですよね。

重見 2年間は地域おこし協力隊の活動に専念してもらいましたが、3年目は移行期で独立への動きもしています。

佐藤 盛徳海運さんの50周年記念で制作させていただいたCM動画は、その第一歩です。

海運業って男っぽくて汗臭いイメージですが、若い人が興味を持つようなキャッチーな動画がほしいという依頼でした。アニメでそれを崩せたかなと思います。

梅田 ヤバい! これ、どのくらいの期間で作ったんですか?

佐藤 協力隊活動の合間にやって2ヵ月ちょっとです。

鼻谷 全部1人で作るんですよね。映像制作会社なら数十万円の値段になりそう。

濱口 盛徳海運さんは合同会社NAKAMACHIのメンバーで、はじめちゃんを知っているから頼んだと思いますよ。

鼻谷 はじめちゃんは消防団とか祭りの奉仕とか、地域ボランティアも楽しそうにやっていますよね。

重見 彼にとって地域活動は、自分を売り込む手段になったと思います。

クリエイティブでお金を得るのは難しい?

佐藤 だけど、報酬がお金以外で来ることも……

鼻谷 ある!食べ物とかお酒とか。何か困ったときに手助けしてもらえたり、見えない部分での「恩返し」もあるんだよね。僕は正直、お金が一番ほしい(笑)。

上村 あの、この場で言うのは気が引けるんですが、僕は地方でクリエイターが稼ぐのは、今の時点では厳しいと思っていて。

鼻谷 上村さんは、本業は介護サービス。

上村 安定した収入を確保すれば、仕事かボランティアかと悩まずに、自分が良いと思う活動に取り組めます。

濱口 そういえば地元の建築士さんが、この辺では家を建てるときに「設計代」を別立てでもらうのが難しいと言ってました。

阪本 昔は、写真撮影も印刷屋さんの仕事の中にひっくるめられていたという話があります。

鼻谷 デザインも設計も写真も、特に地方でクリエイティブだけでお金をもらうのは難しいんですね。ライターもそんな気がする。

上村 僕はイベントの企画運営もしますが、それに絡めてチラシやポスターを作る。デザイン代は、印刷物の代金と捉えてもらえるようにお金をいただきます。形の見えないサービスは、物の上に乗せて売るといいですよ。

町にクリエイターが必要なら

鼻谷 僕は鳥羽で3年間ライターをやっていますが、正直、稼げているとは言えません。阪本さんが地元で30年以上も写真家を続けてきたことは、僕には想像がつかないです。

阪本 やれるもんですよ。でも、僕も最初はお金のことあまり言えなかった。

鼻谷 TobaChairsで記事を書いた糀屋さんに今も通っています。おまけしてもらうことがあるけれど、「豆腐屋」さんだから、1丁150円は必ず払います。だけど、町中で「ライター屋」の看板を立てて文章を書いても、お金を得るのが難しい感じがします。

濱口 それでも最初から契約しなきゃ。

鼻谷 おっしゃる通りです。濱口さんは町内会長も務められていますが、まちづくりや自治会活動はほとんどボランティアですよね?

濱口 私は40代のころ名古屋で働いていたんです。実家の両親が病気で倒れたときは近所の人がご飯を届けてくれたり、洗濯をしてくれたんですね。そういう付き合いを何世代もしている「いなかの町」。

だから、私にとってのまちづくり活動は、町への恩返しです。さっき梅田さんが言ったようにね。

でも町にライターや写真家のような人が必要なら、お金を払わないといけない。町が変わっていくためには、このまちにクリエイターが必要だと私は思います。だからみなさんは遠慮なく交渉するべきですよ。

地元クリエイターがこの町でできること

濱口 ちょっとお知らせですが、そこの糸屋さんが、解体されることになりました。

鼻谷 えっ、あの立派なお屋敷が!?

濱口 大正時代からの呉服屋さんで築100年くらい。

鼻谷 壊す前に写真撮れないかな……。なくなっていく町の風景を記録したり、注目させたりできるのは写真や映像の力ですよね。

阪本 1冊の写真集だけで町が活性化した例は知らないけど、積み重ねることで町の存在が知られていくケースはあります。

 鳥羽なかまちが広く知られたきっかけは、ローカルテレビの取材でした。観光客の方らも写真で広めてくれて、大きな効果だったと私らは思っています。最近は大型クルーズ船で来た外国人の方らが、うちの寺に来て墓地まで見ていくんですよ。

阪本 外部の方のほうが、興味のあるものをすぐに撮りやすかったりします。逆に地元で活動していると、容易に入っていけない世界がある。僕は、相手とお茶を飲むようになってからやっと撮るスタンスです。

鼻谷 地元にいて付き合いがあるからこそ「容易に入っていけない世界」が見えるんでしょうね。

大越 そういえば、鼻谷さんがTobachairsの1年目で印象に残った取材はどれでしたか?

鼻谷 全部と言いたいですが、1つ挙げるとすれば初回の糀屋さんの取材。いきなり大苦戦でした。

大越 最初はシンプルに「豆腐店の継業者募集」とするはずだったのが、取材に行ったらいろんな課題が見えてきて……という記事でしたね。

鼻谷 地元のお店だから簡単かと思ったら大間違いで、通えば通うほど店の歴史の厚みや町やお客さんとのつながりも見えてきて、あ、これは時間がかかるぞと感じました。

でも、だからこそここに住まなきゃ書けない記事、地元ライターにしか向き合えないものでした。

今日は司会の立場で皆さんに「地元クリエイターが町に何がもたらすのか」と聞いたけど、僕自身も、もっと町とつながっていきたいと思います。

大越 時間なので、続きは2次会にしましょうか(笑)。

もう1つの家としてのコワーキングスペース:むすびにかえて

町を拠点としたクリエイターの営みは、住むことから始まります。

まずは自分自身が町の1人となり、町にひたり、生活の中からその魅力を掘り起こすこと。それを自分の声、つまり言葉や写真やアニメーションで表現すること、伝えること。

彼らの活動は同じ会社に勤め、毎日定刻に決まった場所へ出社するものではありません。普段は各々に職場を持ち、活動を行います。そんなクリエイターも迷う時があります。

それは価格の提案であり、仕事の受け方であり、そもそも「仕事」と「地域活動」をどう位置づけるかという話であり。

クリエイターが気軽に集い、ともに机を並べ、ときに食事を一緒にとれる場所があることは、心強いものです。

この記事を読んだあなたが、もし町に根ざしたクリエイティブに関心をお持ちでしたら、ぜひKUBOKURIを訪ねてみてください。

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