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南伊勢をあるくvol.3内瀬編(三重県)

内瀬をあるく

内瀬(ないぜ)はその名の通り、五ヶ所湾内にできた瀬に面した集落だ。人口300人弱の農村で、主な産業はみかん栽培。国道260号線を走ると、山合いにはみかん畑、海にはアオサノリ養殖の風景が広がる。また本州最大級のハマボウの群生地でもあり、夏には黄色い花が訪れる人を楽しませてくれる。

南伊勢のコワーキングスペース

とある朝、「しごとば 油屋Ⅱ」でライター作業をしている。ここは、ぼくたち「むすび目Co-working」(取材記事はこちら)が物件探しから改修、運営までを手がけたコワーキングスペース。親しみを込めてこの場所を「しごとば」と呼ぶ。

ぼくが「しごとば」を必要とした理由は、食の生産者に囲まれた南伊勢町で、ライターとして活動したかったからだ。

南伊勢町は海と山に囲まれた自然豊かな土地で、南伊勢をあるく贄浦編でご紹介した漁師や今回登場するみかん農家との距離が極めて近い。

日本各地の食の生産現場を巡り、この町に辿り着いたぼくはこの町が好きになり、地域おこし協力隊に採用された。ミッションである南伊勢町の魅力発信を行う上で、困りごとが一つ。パソコンを広げ、作業できるスペースが限られることだ。

ぼくが東京で生活していた頃は、24時間作業スペースに困ることはなかった。スタバ、マック…いつでもコンセントとwifiの繋がる場所が身近に用意されていたからだ。

そこで、ぼくは「作業場」をつくることから始めた。

「せっかくなら海の見える場所がいいよね」

同じく作業場を必要としていた町民と意気投合し、ともにむすび目Co-workingを発足。その事務所として、しごとばを借りたのが2019年の4月だった。その後は改修を進め、町外から訪れる人も仕事をできる場としてオープンした。

※会員制で利用者も募集中

しごとばをつくったことで足繁く通うようになった内瀬集落を、人に焦点をあてて紹介したい。

海の見えるみかん畑へUターン-久保亮さん-

最初に訪ねるのは、しごとばの家主である久保亮(くぼ りょう)さん。内瀬で、みかん農家を営んでいる。農園の屋号である「油屋(あぶらや)」にちなんで、コワーキングスペースを「しごとば 油屋Ⅱ」と名づけた。

亮さんの軽トラに乗せてもらい、ぐいぐいと急勾配を登る。

南伊勢町出身の亮さんは、2015年に夫婦で南伊勢町へ戻ってきた。なお美さんはもともと東京出身で、亮さんと出会うまでは南伊勢町を訪れたことがなかったそうだ。

「ここがうちのみかん畑だよ」という亮さんの声で振り返ると、みかんの段々畑越しの景色に心がときめく。リアス式海岸の入江の穏やかな海は、五ヶ所湾内の海水と淡水が混じる“汽水域”。毎年9月から4月ごろにかけては、アオサノリ養殖の風景も広がっている。

「こんな景色を見ながら畑作業できるなんて、贅沢ですね」と亮さんに伝えながらハッとする。ぼくもまたこの景色を眺めながらライター作業をしているのだけれど、やはりそれは贅沢なことだと気づかされる。

「せっかくなら、みかん狩りも楽しんでいきなよ」と亮さん。「同じ品種のみかんでも、木の年齢や日当たりで味が変わるんだ」と、美味しいみかんの見分け方を伝授してもらいながら、実を一つひとつ摘んでいく。

遠慮がちなぼくの手つきを見て、「袋いっぱいになるまで帰られんよ」と亮さんは笑った。

農家さん抜きに語れないコワーキングスペース

久保さんからお土産にいただいたみかんは、しごとばにシェアみかんとして置かれ、仕事の合間や、町外から訪れた人のお茶受けになるのだ。

もう1人、内瀬のみかん農家で紹介したい人がいる。しごとばの隣にあるないぜしぜん村を切り盛りする山出公一郎(こういちろう)さんだ。いつも頭にタオルを巻いてしごとばへふらりと来ては「みかんまだあるか」と差し入れをしてくれる。

山出さんには協力をいただき、2019年にはこたつdeみかんというみかん狩りのイベントを一緒にやらせてもらったこともある。

出典:度会県ホームページ 赤いドテラを着ているのが山出さん

差し入れのみかんをいただいたり、物件を借りたり、一緒に企画をしたり。ぼくたちの活動を広い心で応援してくれる内瀬のみなさんの存在が、しごとばの活動の基盤となっている。

農業やりたい。子どもたちとみかんの集落へ-青柳真理さん-

「農業をやるなら果樹をやりたくて。みかんは家族全員が好きだから」

そう語ってくれたのは青柳真理さん。出身は群馬県。一男二女の子どもとともに、2018年の9月に南伊勢町へ。

農業を始められる場所を探していたところ、インターネットでたまたま南伊勢町の地域おこし協力隊募集を目にした。協力隊としてのミッションは、「町のブランドみかんを育て担い手となる後継者(みかん農家)」というもの。

まさに、青柳さんの求めていた環境だった。

「これだと思ったら行動するタイプ」だと自身で語る青柳さんは南伊勢町を訪問。子どもとともに移住を決めた。

青柳さんが働くのは、内瀬柑橘出荷組合・アサヒ農園の田所一成さん。なぜ地域おこし協力隊を受け入れたのだろう。

「人を受け入れることの勉強やね」

産地として人手が不足していること。後継者を育てる必要があること。こういった背景からアサヒ農園では、インターンシップの募集も行っている。

https://kii3.com/asahi/

力仕事もあるため、男性からの応募を想定していた田所さん。青柳さんからの応募を受けた当初は「女性が一人でみかん農家としてやっていけるのだろうか」という不安があった。

「でも、やってみやなわからん」

田所さんは受け入れを決意した。

それから1年半。みかん農家・田所さんの挑戦と、青柳さんのひたむきさ。その2つが重なった今、青柳さんはアサヒ農園の大切な戦力となっている。

夫婦で内瀬へ。協力隊とフリーランスの2人-西岡正隆・奈保子さん-

アサヒ農園を後にして、内瀬川に沿って集落内を歩く。

次に向かうのは「ひなたぼっこ」。週に1度開放されるフリースペースだ。

ひなたぼっこ

オープン日時:毎週火曜日/毎月第一土曜日 9時〜15時

住所:三重県度会郡南伊勢町内瀬983−3

この場所を始めたのは、上谷典子さん。

上谷さんは内瀬に住むお年寄りのために、毎月第3火曜日にサロンを開催している。

そして公共交通機関がバスしかない地域で、車に乗らない人が歩いて集まれる場所をつくりたい。そんな想いから、ひなたぼっこが生まれた。名前の由来は、日当たりの良い場所に自然と人が集まって、井戸端会議が始まるという内瀬の当たり前の風景にある。

毎週火曜日と毎月第1土曜日は、どなたでも迎え入れているので、記事を読んでいる方も気軽に訪ねてほしい。

ひなたぼっこで待ち合わせたのは、名古屋市から移住した西岡正隆さんと奈保子さん。

正隆さんはみなみいせ商会という地域商社にて地域おこし協力隊として働き、奈保子さんは、「コミュニティデザインこどものめ」という屋号で保育園コンサルティングの仕事を行う個人事業主だ。

2人が初めて南伊勢町を訪れたのは、2017年4月。奈保子さんが当時通っていた大学院の研究で、空き家調査に来たのだ。

「わたしが会社で働きながら大学院に通い始めて、研究で週末に南伊勢に通うようになって。もともと週末しか会えていなかったのに、その時間さえとれなくなった。『それなら一緒に南伊勢へ行こう』と、彼に研究についてきてもらっていました(笑)」

奈保子さんは、むすび目のメンバーでもある。

南伊勢町への移住を先に考えたのは、正隆さんだった。町内の飲み会で出会った人々に惹かれ、南伊勢町を好きになっていく。そして、単身での移住を決意。2018年7月には奈保子さんも南伊勢町へ引っ越して、現在は2人で内瀬暮らしを営んでいる。

2人は「たまたま、南伊勢町だったんです」と話していたのが、印象に残った。

みんなたまたま、南伊勢町でした

こうして内瀬、そして南伊勢町にはじわじわと移住者が増えつつある。

今回訪ねた移住者のみなさんとぼくには、共通点がある。それは「最初から南伊勢町を目指していたわけではない」こと。自分の将来を考え、ある時期にたまたま南伊勢町を訪れ、それまでなかった選択肢と巡り合う。

そうした良い出会いは、あらかじめパッケージプランとして用意されているものではないからこそ、自分の足であるき、見つけていくもの。

興味を持った人は、ぜひ一度南伊勢町を訪れてみませんか。その際はむすび目Co-workingまでご連絡ください。自分と出会うささやかなお手伝いができるかもしれません。

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