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自伐林家、大和野菜栽培、流木木工… 下北山村で暮らす人びとを訪ねて

8集落に895人が暮らす奈良県・下北山村。

わたしたちは、なまえもしらなかったこの村へ、大阪、鎌倉、埼玉から越してきました。あらためて考えると、“移住”は結果にすぎません。自分にとってよりよい暮らし、ここから探してみませんか。

下北山村では、はじめての移住ツアーを開催します。とろっとろのナトリウム泉、澄みきった川、アユ釣り。知ってほしいことは山ほどありますが、今回は人を通して、下北山村を紹介させてください。

<人を訪ねる①-小川ともやさん-自伐型林業->

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小川ともやさんは、今年の3月までパチンコ店ではたらいていた。

「大阪・羽曳野市に20年住んでいました。休みになると、奈良・十津川村によくドライブに行ってたんです。なんかこう、山見てて・・・『子どものころはこんなに土砂崩れもなかったよな』。ぼんやりと思ったんですね」

「仕事を続けて10年。違うことしてみたいな、というのもあったんですかね。なにからはじめたらいいかわからなかったけど、林業の講習を受けだして。下北山村で自伐型(じばつがた)林業家を募集していたんです」

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従来の林業とは違うんですか?

「個人でもはじめやすい林業なんです。僕自身、『山に何かできないかな』と思っていたけれど、ピンと来る就職先に出会えなかった。自伐型林業は“自営の林業家”なんです。山の斜面を切りひらき、2.5m幅の作業道をつける“道づけ”からはじまります。自分で木を伐倒して、2tトラック一つで丸太を運び出して、苗木を植えていく。色々できる分、面白そうだと思ったんです」

この日は、寺垣内地区にある村有林で“道づけ”を行っているところ。

「これから木を切るんです。見ますか?」

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ヴウウウンと、チェーンソーの音が響く。木の根元に“ウケ”とよばれる切り込みを入れた。そこへ再びチェーンソーの歯をあてる。

「ちょっと曲がっとるんで、木の頭があのへんに倒れるかな」

根元を切ること数秒。メキメキッと木が倒れていく。

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下北山村では現在、4人のメンバーが自伐型林業に取り組んでいる。年齢は26歳から41歳。出身は鎌倉から大阪までさまざま。

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青いシャツの小野さんの前職は、出版社。夫婦で鎌倉から越してきた。

「2014年から2016年にかけての808日間、世界一周に出る中で、森に目が向いたんです。もともと、吉野・熊野エリアがおもしろいなと思っていたところに、自伐型林業家を募集していると聞いて、下北山村を知りました」

「自伐型林業の特徴の一つが、副業をすすめていること。たとえば、夏場はゲストハウスを営み、カヌーガイドをして、冬場に山の手入れをする人も現れています。ここ、奈良・和歌山・三重の県境なんですね。吉野でありつつ、熊野との結びつきもあって。かと思えば、世界遺産に認定されている修験道の道『大峯奥駈道(おおみねおくがけみち)』も走っている。手つかずの資源が眠っているところが、おもしろいなと思ったんです」

<人を訪ねる②工藤延春さん-農業->

工藤延春(くどう のぶはる)さんは、2012年に下北山村へやってきた。現在は、NPOサポートきなりに所属し、野菜づくりを中心に行っています。生まれ育ちは大阪市生野区。北海道の大学で酪農を学び、青年海外協力隊としてドミニカ共和国へ。千葉で17年暮らし、スーパーに勤務。「食材を売る側の人だった」という。

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「農業がしたかったんです。いったん大阪に戻り、奈良・宇陀(うだ)市の農園で研修を受けているときに、下北山村を知ったんです。農業の担い手を募集している、と。ここでしか育たない“下北春まな”という野菜があります。奈良県の大和野菜に認定され、年々注文が増えているけれども、生産者は減っている。そこで、栽培に取り組む人を探していたんです」

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実際にはじめてみてどうですか?

「農業、面白いですよ。二期作ができないのかな?と思って下北春まなを夏に育ててみたんです。育ちはするんですけどね・・・秋植えの春収穫でないとおいしくない。それで二毛作にきりかえました。今年は、まくわうりを育てています。収穫は年に一度ですからね。今年のデータは取れても、来年は植える場所も、天気も変わる。それがむずかしさであり、面白さでもありますね」

「個人的に、田んぼもやっています。自分の食べるものを自分でつくれている、その安心感があるんですね」

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川ぞいにある工藤さんの畑は、腰かけているだけで落ち着く。聞こえてくるのは水の音、鳥の鳴き声、風に木が揺れる音。炎天下にも関わらず、大豆畑の前でつい長居をしてしまいました。9月のツアーでも、訪れる予定です。

<人を訪ねる③岩本佳子さん-奈良県庁職員->

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奈良県庁から下北山村役場へ出向中の岩本佳子(いわもと よしこ)さん。今回のツアーの企画者です。出身は奈良・西吉野町。スーパーもコンビニもない環境で育ってきたという。奈良県の南部を盛り上げたいという思いから、県職員に。2017年には、下北山村を紹介するパンフレットも作成しました。こちらもぜひ手にとってほしい。

「下北山村にはいいところがたくさんあるな、と思うんです。『ヨソから来た』という感じがあまりなくて。村民さんと一緒に夕ご飯を食べることもあれば、延々とご近所さんと“おすそわけ合戦”が続いたり。林業がありつつ、奈良県の南部にしてはめずらしく平地にめぐまれて、田んぼ・畑もはじめやすい。それからきのう、海釣りに連れて行ってもらったんですけども。『釣り好きにちょうどいいんやよ』と。村内での渓流釣り、バス釣りはもちろん、三重の尾鷲や和歌山の田辺での海釣りもできて」

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今回のツアー、どんな人に来てほしいですか。

「『どこか、いいいなかないかな』と思っている人の目に止まってくれたら。まずは『こんな村あるんや』と知るきっかけになったらうれしいです」

<人を訪ねる④本田昭彦さん-木工->

最後に訪ねたのが、埼玉県川口市から越して18年の本田昭彦(ほんだ あきひこ)さん。大学卒業後、長野県の温泉旅館へ就職。そこで下北山村出身の美紀子さんと出会った。

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本田木材工作所の屋号で、日本全国から家具の注文を受ける本田さん。木工をはじめたのは、ひょんなことがきっかけだった。

「最初は、自給自足へのあこがれもあって。山の湧き水をひいて、無農薬の米づくりをしてみたり。ヒルにあちこち吸われながら、水源地へも入りましたね(笑)。現金収入を得るため、色々なアルバイトをしましたね。ダムの測量、山村留学で訪れた子どもたちが寝泊まりするやまびこ寮の宿直、バスフィッシングのマリーナスタッフ。塾もやらせてもらいました」

「木工をはじめたきっかけは、ダムの湖面に浮かぶ流木を見て。はじめはホームセンターで道具を揃え、やがて廃業する木工作業所から機材を譲り受けて。じょじょに、じょじょにですね。もともと、木工の学校を出たわけでも、デザインを学んできたわけでもない。シュッとした木工ができなかったからこそ、何とかここまでやってこれたのかもしれません」

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18年目の今、下北山村に対する印象はどうですか?

「ここでじゅうぶんかな。そう思ってます」

じゅうぶん?

「美紀子に言わせると『広葉樹のある蓼科高原がよかった』とか(笑)。それもわかるし。でも、ここでじゅうぶんかなって。ちょっとヤになる時期もありましたよ、もちろん。むしろ、自分自身が変わってみようと思ったんですね。まぁ、来たときは自分のことで手一杯でしたから」

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「こっちに来て本、読まなくなったんですよ。前もって知識を備えておくことがなくなった。手を動かしているとわからないことが出て。その都度調べる感じですね」

「自分にバイタリティが湧いていたら、そういう場所にいたら大丈夫と思っているんです」

本田木材工作所は、今大きな転換期にあるという。

「ここ数年、村が林業に力を入れる中、木材加工で声をかけていただく機会が増えているんです」

2017年には、かつて宿直のアルバイトをしたやまびこ寮に、家具を製作・納品。

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そうした中、美紀子さんが勤めをやめて、6月から木工の仕事を手伝いはじめた。

「育ち盛りの子どもが2人いる中で、背水の陣ってやつです(笑)。正直ね、今までの規模でやっていきたい気持ちもあります。でも、他にする人がいない村の現状(笑)もあれば、ぼく自身にようやく柔軟性が出てきたこともあります」

「まぁなんとかなるか、というところで。前もって考えすぎちゃうと、先へ進まないんでね。とにかくやらなアカンこと、一つひとつやっていったらいいのかな」

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<guest point>

下北山村移住ガイドブック

下北山村の今を10分で知ることができます。移住にかぎらず、観光にもおすすめ◎

下北山スポーツ公園

キャンプ、サッカー、テニス、ゴルフ・・・都市部からの若者がくりかえし訪れる「O(オー)ターンの村・下北山村」を目指して、はじまった施設です。2017年の夏には滞在型プロジェクト「下北山村トライアルステイ」をはじめました。

下北山小学校

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“し”っかり学ぶ、友だちも自分“も”大切にする、“きた”える「たくましい北山っ子を育てる」を目標に、子どもたちが日々を過ごしています。

ぽこぽん図書館

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下北山村には図書館がありませんでした。移住者の方の「図書館がないならつくりたい!」という声をもとに、サポートきなりが取り組み。2017年6月にオープンしました。旧上桑原公民館を舞台に、地元の大工さん手製による本棚、ボランティアによる看板づくり、村の教育委員会・・・ みんなでつくったみんなの居場所です。

NPO法人サポートきなり

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村民の困りごとに、コミュニティビジネスとして取り組むNPOです。高齢化により難しくなった草刈りやハチの巣駆除の有償お手伝い。車の運転ができない人向けの有償運送。また毎週土曜日には地産地消をめざした朝市をはじめました。

(写真と文 大越元)

この記事は、TURNSへの出稿記事です。

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