つくるのは暮らしを変える豆腐。海辺の豆腐店が継業募集(前編)糀屋/三重県鳥羽市

Toba chairs(トバ チェアーズ)は、三重県鳥羽市が企画する仕事紹介プロジェクトです。紹介するのは、鳥羽市在住の2人のクリエイター。今後、6つの仕事を紹介していく予定です。第一弾として、「暮らしを変える豆腐店・こうじ屋」を紹介します。

(文 鼻谷年雄/写真 佐藤/ ロゴデザイン 勝山浩二/ 編集 Kii)

1丁の豆腐が、僕の朝を変えた

僕は、三重県津市から鳥羽市へと移住をした鳥羽市街でゲストハウスを営みつつ、ライターをしている。

ここで、想像してみてほしい。もしもあなたが海辺のまちへ移住したら、どんな朝食を食べるだろう。

ホカホカのお米、焼き魚、そして豆腐とネギのみそ汁?

幻滅かもしれないけれど、僕のは違う。

近所にあるコンビニで買ったおにぎりと、インスタントのみそ汁。

(移住を機に料理を覚えようともしたけれど、続かなかった…)

そんな僕の朝食が、ここ1月で、こうなった。

なんと、インスタントではないみそ汁を作っている。それもコンブとカツオ節でだしをとって。

慣れないうちは、朝食をつくるのに1時間半もかかった。

面倒くさい。

でも・・・

めちゃめちゃうまい。

なんだこれ。

鳥羽に移住して3年目の小さな驚きだった。

僕の朝を変えたのは、1軒の豆腐店だ。

鳥羽の台所と呼ばれるなかまちの玄関口にある築100年の住宅兼店舗。ここで、豆腐をつくってきた濱口さゑ子はまぐち さえこさん。4代目の彼女が切り盛りするのが「糀屋こうじや」だ。

糀屋がまちに届けているものは2つ。

1つは、もちろん「豆腐」。そして、「地域のコミュニティ」。

そこで、前編「豆腐店の商売を継ぐ」・後編「豆腐店のコミュニティを継ぐ」に分けて紹介をしていきたい。

一丁の豆腐ができるまで

早朝5時、ゴムエプロンに長靴をはいて工場に立つ濱口さゑ子さん。

まず、前の晩から水に浸しておいた大豆を、工場の粉砕機に投入。すりつぶされた大豆を釜へ移して煮ること10分。漉し布をセットした絞り機へ。濾し布を通って、寸胴鍋に流れ落ちる。これが豆乳だ。

次が肝心の工程だ。豆乳とにがり(ふすま粉)を混ぜる。「しゃもじ」と呼ぶ大きな木べらで、鍋の中を混ぜていく。

しゃもじで、鍋の中を混ぜて、混ぜて。液体はやがて、「寄せ豆腐」となる

一見単純な作業なので「なんだ、僕にもできそう」と思ってしまうが、

「60年作り続けたからね、身体が覚えとるんよ」

さゑ子さんの一言にハッとする。

そう、実は天候や豆腐の種類に応じて材料の配分や加熱を微調整しているのだ。

「微妙な力加減が、豆腐のかたまり具合を決める。同じ豆腐は、2度とできないのよ」

ここでなんと、寄せ豆腐を一度崩してしまう。そして、型箱へ。

型箱に圧力をかけて水分を抜くと「木綿豆腐」の出来上がり。

さて、この豆腐のお値段は?

1丁150円よ。わたしは赤字にならん程度にやってるから。1丁100円そこらのもんなんて、年寄りの仕事さ。けど、儲ける方法もある。若い人は儲けておくんない(儲けてちょうだいね)

1丁150円の豆腐って、高い?

若いお母さんたちは、スーパーで買うんよ。“あっち”の方が安いから

さゑ子さんは、取材中に何度もこの言葉を繰り返した。

かつては僕もそうだった。遠いスーパーへ車を走らせて、1丁56円の豆腐を買っていた。けれども今は、自転車で糀屋へ豆腐を買いに行く。

そう、移動手段も変えてくれたのだ。

暮らしそのものを変える豆腐が、1丁150円。僕にとっては、安いくらいだ。ライフハック豆腐だ。

まちの豆腐店に明日はある?!全国豆腐連合会に聞いてみた

お分かりのように、取材以来、僕の頭は豆腐一色になってしまった

図書館に行っては「豆腐」と名のつく本を手当たり次第に読み漁る。ネット通販で豆腐チーズを購入する。

そして、面白いデータを手に入れた。1960年には全国で51,596軒もの豆腐店があったのだ。実はこれ、現在のコンビニ店舗数に匹敵する。

ところが2016年現在、豆腐店は6,971軒。どうしてこんなに減ったのか?

(かつてはなかまちにも3軒の豆腐店があったという)

とうとう僕は、「一般社団法人 全国豆腐連合会」という団体に電話をしてしまった。すると、広報担当の方が、次のように答えてくださった。

豆腐がスーパーで買うものになったんです。スーパーの売り場では、全国展開する大規模メーカーが価格競争を繰り広げてきました。ただ、ここ数年で、今までになかった変化があります」

–どんな変化ですか?

豆腐の販売チャネルが増えたんです。地方では道の駅、都会ではアンテナショップデパ地下。そしてインターネット通販や、車での移動販売ここで注目すべきは、価格です1丁300円でも売れている豆腐があり、それは材料、製法、パッケージに独自のこだわりを持った豆腐なんです」

–安い豆腐だけが売れるとは限らなくなったんですね。

「はい。こうした豆腐の強みは、“全国展開”ではなく“ご当地”であること。だから、地域にまとまった数を出荷できる中規模メーカーが出荷額を伸ばしています」

(補足:ここでいう「地域」とは東海のような広い範囲から、伊勢志摩くらいの狭い範囲まで。)

–では、糀屋のような「町の豆腐店さん」は、どうすればよいのですか?

「“商売”を堅実に成り立たせる町の豆腐店さんも、全国各地にありますよ。生産から販売までを一貫して手がけ、値段を自ら決められる。小規模メーカーの強みをいかしましょう!」

どうやら、道はあるみたい。

<後編は、画像をクリックしてね>

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