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「フリークライマー、パンをつくる」林修司さん/後編/パンむぎとし/和歌山県新宮市

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元気がわき出すパン

どうして元気がわき出すパンをつくろうと?

なんでしょうね、ふつうに考えたらそうなったというか。「おいしかったね」だけで終わる食事もあるじゃないすか。1週間後には忘れてるような。

僕ね、忘れられない味があるんです。こっちに来て、茶工場で1日働いたあとに飲んだお茶。この先にも、もうあれ以上のお茶は飲めないと思う。それと、2週間前の食パン。味って体験だと思いました。

意外なのは、全粒粉100%のパンを子どもがぱくぱく食べるんです。それが本能というかね。

ところで修司さんは今いくつ?

さんじゅう・・・さん、よん?なったとこかな。

いままで何をしてきたんですか?

パンづくりをやろうと思ったのは、もともとそう、だからぼくは岩登りが好きなんですよ。フリークライミングやってて。バイトして1月で30万ぐらい貯めて、海外に行く。そういう生活をしてて。で、日本帰ってきたときに食べたパンがマズすぎて、アカンわと。

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-ははは(笑)。

これをパンて呼んだら、恥ずかしいなと思った。パンていうより添加物の味や。白いふわふわのパンとか、味がものすごいかたよってるんですよ。あとはクライミングで飯食えへんわ、才能なさ過ぎたというのもある。

マズいパンを食べて、パンづくりがはじまった。

海外から来たお客さんとかは、うちのパン食べて「This is real bread!(パンってこういうのだよね!)」っていう。

どうやって技術を身につけたんですか。

専門学校行って、ふつうのパン屋で3店舗ぐらいはたらいて。

パニックになったのが数字。もうわけわからない。パンのせかいってすうじだらけなんですよ。すごいニガテなのに。レシピも○○= g、生産工程も、○○時になになにして…

-ほんとうにニガテ。

むちゃくちゃニガテです。だってもう… 小学生のころにさんすうという概念をつくったやつを殴りたおしてやろうと思ったぐらい。まぁ今は、パンに関しては数字が感覚でわかるというか。びみょうなニュアンスも数字で出せるかな、となってきたんですけど。

小麦をつくる、パンをつくる

どうしてこの場所に?

たまたまです。九重小学校に決まったのもたまたま。

-小麦づくりの環境としてはどうですか。

雨が多すぎる(笑)。多すぎて、むずかしいですね(笑)。でもその環境でも健全に育つやつもおるんで。なんで健全に育つのかがわかれば、その条件をつくることができるんちゃうかなぁ。パンづくりも一緒です。

つくる上での常識とか基本はあるんですけど、あまり真似しすぎると凡庸になる。そういうのは、妥協の産物じゃないですか。失敗しずらい、そこそこのものができるための。そこじゃなくてもいいと思っていて。ちょっとはみ出るぐらいのほうがめちゃくちゃうまかったりする。でも行き過ぎたら、明らかに失敗したり。この、ぎりぎりの、境目を見つけないと。

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-そういうこと、専門学校では学べませんよね?

ぜったい教えてくれない(笑)。自分で畑を、パンを見るしかないですよね。見て、こういう流れで、ここが変わるとこうなる、とわかってくる。

小麦づくりは、極められないことに気づくのが最初の一歩でした。

極められない?

きりがないというか。一生やっても一生分しかわからない。ぼくが80歳まで生きるとしたら、あと50回しか栽培できない。

-気づいたときは、

まだまだできることはあると思った。日本のパンは、技術的には世界のトップで研究しつくしされたように言う人もいる

でも実はこれからなんです。日本のパンはまだスタートに立ってない、ぐらいの。小麦を栽培したから思いつくパンの製法がある。農家さんだけでもわからないし、パン屋だけでもわからない。両方やらないとわからない。

料理人って畑に興味持って栽培までいくじゃないですか。なんでパン屋はそこまでいかへんのやろね?

製粉会社が粉を調整してくれるから。それじゃ極められないですよね。製粉会社とか研究者から聞くデータ頼りでは、小手先のパンづくりになってしまう。それを「極めた」と思っても、実は奥に畑がある。

-昔ながらの人の手によるパンづくりをかたくなに守っていく。むぎとしのパンは、そういう類いのものだと思っていたんです。

だけじゃないです。ぜんぜん、まだまだ。

-“食べる人”の話もしたいです。ハード系のパンは「酸っぱいからニガテ」という声も聞きます。

それはつくり手の問題すよ。味は酸味だけではないんです。結局食べつくされてしまうと、酸っぱいだけが残る。これ以上は言わないですけど。酸っぱいというのは、乳酸菌がはたらきすぎて、小麦の糖分が食われてしまっているから。甘味がないんです。そうなると味の濃いチーズとかハム、肉と合わせるしかない。

日本は穀物文化なので、日本人に合わせた発酵の仕方をしないと。そこはもう、つくり手が腕をあげるしかないです。味をつくるというのは、それだけむずかしいこと。

-通販で全国から注文する人もいれば、近所から買いにくるお母さんもいますよね?

ずっと超熟を食べてきた人が、これを食べたんですね。

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今度はこっちでないと食べられなくなってしまった。「ふつうの食パン食べると頭いたくなるんや」って。それとか「娘が都会から食パン高いの買ってくるけどいらんねん。気持ち悪うなるから。これしか食べられへん」いう人はいます。

多分わかってもらえないのは値段やと思う。「なんで食パン1本で860円もするの」。そこはつらいけど、しゃあない。

ぼくだって高いと思いますもん。でもきっと、もうけている価格設定ではないんですよね。

ちょっと安すぎると思ってます。

-最後に、ブックカフェ九重ではたらいて、むぎとしのパンを調理する人に伝えておきたいことはありますか。

「お客さんを元気にすること」を考えてつくってもらえると、パンも活きるんじゃないかな。人は元気になるために食べる。そうやと思うんです。

パンむぎとし

林修司さんと暁子さんの夫婦が営む。実店舗営業は土曜・日曜・祝日の 12:00-18:00。売り切れ次第終了とのことで、この日も15時過ぎには「完売です」の声が。通信販売も行っています。

前編

<book cafe kujuの記事はこちらから>

kujutop.

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