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無農薬、全粒粉、石窯。和歌山県で小麦から育てるパンむぎとし-パン一つで人は元気になる-/和歌山県新宮市

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和歌山県新宮市熊野川町にあるbook cafe kuju(ブックカフェ九重)ではたらく人を募集している。

kujutop.

今回は、同じ旧九重小学校内に店をかまえ、カフェへもパンを提供する「パンむぎとし」の林修司さんを訪ねました。(聞き手:大越元)

-よろしくお願いします。2週間前に山型食パンを食べたんですけども。むしょうに生きたくなったんですよ。口の中から「起きろー」っていわれたみたいで。

それはすばらしい。むぎとしがつくるのは元気がわきだす、生命力にあふれたパンなので。

-もちろん、はじめての経験です。

つくり手みょうりに尽きる感じですね。

自己紹介をすると、ぼくは二十歳までずっとジャンクフード好きでした。小学生のときは右手にからあげくん、左手にポテト。肥満児で。社会人になって数年は深酒して、ラーメンでしめる。食べることはストレス解消でした。

むぎとしのパンを食べたとき、満たされた感じがあって。どんなことを考えて、このパンをつくっているんですか?

ふつうを追求していったらこうなったんです。小麦から酵母をおこして。その酵母を使って、石臼でひいた粉を、時間をかけて発酵させて、火で蓄熱させた窯で焼く。ふつうのことをふつうにやっているだけです。

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-むぎとしのパンは“特別”ではないと。あのー、ぼくにとっての“ふつう”は、Pasco超熟なんです(笑)。

早く、安く、多く。イーストでふわふわに、おっきく見せる。むりにボリュームを出したパンには、味がないんです。だから砂糖で、加工乳で、加工油脂で味を加える。業者が、すすめてくるんです。「新しく出ました、バター風味ですよ」と。ぼくは「バターちゃうんかい!」と思うんやけど(笑)。

パン屋自身、なにが入っているかわからないものでつくる。それがふつうになってるんですね。

パン屋の子たち、まぁ、それおかしいと思いながらはたらいてるんですよね。うちにも見学に来ます。「パンつくってるというよりただ作業してるだけ」「むちゃくちゃいそがしくて長時間労働」「なにをやってるんやろ」。そういう声を聞きます。

今は大きな流れとして、職人いらずの時代に向かっていると思うんです。製造未経験者でもはじめられるフランチャイズなども見ます。

人がいなくても、人工知能がやってくれる方向になってる。でももうぜったい負ける気がしないですよ。いくらこう、プロみたいにおいしくご飯が炊ける炊飯器やホームベーカリーが出ても。人工知能って結局、人間がデータ入力して出来た思考回路ですよね。

言葉にもできない、体に蓄積した感覚が、パンづくりのかなりの割合を占めています。そのはじまりは、小麦を植物の種子ととらえるか、ただの原料ととらえるか、なんです。

やっぱりその、小麦を粉からしか知らないと、どうしても小手先の味になる。どこの製粉会社のどういう銘柄を、あれは何割、これは何割、何割。製粉会社の粉というのは、誰でもそこそこのパンがつくれるように、たとえばタンパク含有量が12%になるように、と調整したもの。雑味があれば、ふすまを取り、酸化を防ぐために、胚芽(はいが)を除くんです。

胚芽ってわかりますか。種子の中にあって、生長すると芽になる。一番いのちの部分です。

どうして小麦からつくるのか

むぎとしさんは、どうして小麦づくりからするんですか

小麦はもともと植物です。

それに、パンづくりより小麦づくりのほうが、期間が長くてその分、影響も大きい。

どんな土で育って、どんな育ちかたをして、どんな栄養分を吸って、どんな微生物と共生して。どんな乾燥の仕方をされるか。どれぐらいの期間保存をされているか。ぜんぶふくめてパンの味になる。

むぎとしの全粒粉(ぜんりゅうふん)は自家製粉をしています。小麦の粒の乾燥度合い、保存具合によって製粉を変えます。粉からパンをつくるレシピも、小麦の状態によって微妙に調整したり。酵母の元気度合いによっても調整する。色んな乳酸菌も共生していて、今日はちょっと乳酸菌はたらきすぎたなと感じれば、温度下げてみる。そういうのをふくめて日々やるんですね。

プラス、薪(まき)。地元の薪を使うようにしていて、樹種によっても燃えかたが違うので、組み合わせて、石窯に蓄熱させる。

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割り方も考えている?

樹種と太さですかね。あとはけむりが出やすいかどうか。そういうのをふくめてパンの味になっていくと思うので。

週2日しか焼けないんです。薪が貴重なんで。一日にみかんコンテナ2箱使います。なんで営業日簡単には増やせないですよね。

-どうして石窯を使うんですか。

ただ遠赤外線で味がおいしいというだけではないんです。地元の山から育った雑木をつかうことで、山の手入れもよくなる。灰は、小麦畑の肥料に。微生物も元気になるし、土が育ち、小麦も育つ。小麦は石窯で焼かれ、パンは人を元気にする。石窯は循環の要なんです。

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-パン屋でよく耳にするキーワードが色々あると思うんですけども。遠赤外線、自家栽培、天然酵母、無農薬・・・

それは手段なんですよ。食べた人が元気になるための手段。むぎとしのパンは、一般にくらべて高いから、一応知ってもらわないとと思って、書いているんですが。付加価値をつけて高く売るための手段ではない。いい材料を買って揃えるだけだったら、誰でも出来る。選ぶだけで高くなるから、別に腕がなくてもいけるし。

でも、食べる人が元気にならないと意味がないですよ。

パン一つで人は元気になる

パン一つで人は元気になるもの?

なったでしょ(笑)?

なったんですけど(笑)。聞いてみたかった。

なると思うんです。めちゃくちゃたまにやけど、食べものですごいこう… 元気がフツフツわいてくるような、やる気がフツフツわいてくるような… ありません?その感覚を目指すべきだなと思っていて。多分出来るなと思っていて。

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つくり手はそこを忘れちゃアカンですよね。味だけを考えると、どうしてもねじ伏せようとする、食材を。この味になれ、と味を添加したり。素材を活かすには、そもそもの食材が元気に育っていないとダメなんですよ。

もとが。

そうそう。だからオーガニックなんです。

オーガニックは違う?

サプリメントづけで育った人間よりも、自分の力で色んな食いもん手に入れて、育ったやつのほうが力強いでしょ?それと同じ。化学肥料を使うと性格が極端になるように思います。砂糖か、塩か。甘いか、しょっぱいかみたいに。

味って、色んな成分が含まれて、共生して成り立つわけで。消毒とかすると、すごいバランスが崩れる気がするんです。ダークサイドに偏って、かんたんにダースベイダーが誕生してしまう(笑)。絶対間違いとは言えないですけど。

つくり手がやるのは「こっちですよ、こっちですよ」と諭しながらおいしくなってもらうこと。ぼくはそう思うんです。

年によって変わる小麦の出来、季節によって変わる酵母の状態… つくり手は、きっと色んなことを五感で聞く仕事だと思うんです。修司さん自身のコンディションも大事ですよね?

大事ですよ。こっちがつかれてるとね、味に出るというか。ありますよ。ちょっとなんていうのか… もうちょっとこうしたほうがいいやろというのがあっても、やらなかったがために酸味が出過ぎたりとか。

つかれてたりすると

なりますよね。だから、4年めを迎えた2017年からパンのラインナップ絞ったんですよ、だいぶ。前は午前2時半出勤でした。体が一番休まるときに起きないといけない。どんどんつかれたまっていって、そのうち俺死んでまうわ、と(笑)。

最初はね、立地を考えてラインナップを広げざるをえなかったんです。でも、これは自分の目指すところとちがう。で、ぐっと絞る分、よりシンプルなものでより深いところへ、まだまだいける。力の方向を集約させて。で、5時出勤に。人間が起きる時間になれたわけで。だから、より元気がわき出すパンになったかなぁ。

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後編

パンむぎとし

林修司さんと暁子さんの夫婦が営む。実店舗営業は土曜・日曜・祝日の 12:00-18:00。売り切れ次第終了とのことで、この日も15時過ぎには「完売です」の声が。通信販売も行っています。

<book cafe kujuの記事はこちらから>

kujutop.

 

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