奈良県で架線集材の技術継業-20代からはじめる林業-/カクキチ木材商店/奈良県川上村

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渓谷の間を人がロープウェイで降りるように、山から木を運び出す方法がある。架線出材(かせんしゅつざい)という。全長40mにもなる200年生の杉・ヒノキ。傷つけることなく、木々の間を架線につるされて、降りていく。その姿は壮大。高い技術が求められることから、その仕事に就く男たちは、どこか誇らしげにも見える。

神戸出身の仙田さん(23)は架線の仕事に就いて2年目の新米。高校卒業後、林業の専門学校である岐阜県立森林文化セミナーへ。奈良県吉野地方で架線出材を行うカクキチ木材商店へ就職。今回は、彼と共にはたらくフォレスター(山林技術者)を募集します。

経験者も未経験者も歓迎です。

今回は、専門学校に通っていても触れる機会が限られるという架線出材の現場を訪ねました。

<山の通勤>

山の仕事は朝早い。川上村・入之波(しおのは)集落の事務所前に朝6時30分集合。今回の現場は、ここから車で10分ほど。

この日の仕事は、架線出材の準備にあたる「ロープの引き回し」と「架線下の木材伐採」。

10日間ほどかけて準備を整えたあと、現場によっては1年以上も出材が行われる。

1日は、山登りから始まる。カクキチ木材商店の濱田さん、仙田さん。そしてスイスから林業研修に訪れている2人と、山へ入っていく。

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この日は夕方から雨の予報。低気圧も手伝い、たちまち全身から汗が吹き出る。もしあなたが林業未経験者であるならば、まずは山の歩き方を覚えることに。小休憩をはさみ、1時間ほどで現場に到着。体が芯から熱い。2度目の休憩をとりながら、作業の段取りを確認する濱田さんと仙田さん。

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<架線出材は、口下手な人でもよいがグループワークである>

ここで一行は二手に別れる。スイスチームはこの場に残り、伐採を開始。日本チームは架線張りに用いるロープを背負い、センターツリーを目指してさらに尾根道を登る。「一番大変なところに取材へ来たな」とみんなが笑う。

延べ1000mのロープを四巻に分ける。一人が30kgほどの一巻きを背負い、山道を歩き出す。「チームワークやで」と濱田さんが笑う。一本のロープはつながっている。張りすぎないように、たわみすぎないように、足並みを合わせていく。

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吉野の山は、全国的に見ても急しゅん。息が切れるけれども、こまめに休憩が入るのは意外だった(取材者の私がいるとはいえ)。「慌てたら逆に危険。山は山らしく、リラックスしてはたらくのもええんちゃうの」と声が返ってきた。

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「こうやって休むんや」。ゴロンと寝ころんだ濱田さん、57歳。架線出材の現場の責任者である。今回はたらく人も、濱田さんから仕事を教わることに。吉野の山で30年以上はたらく腕前は確か。かつて川上村で行われた林業オリンピック“そまびと選手権大会”での優勝経験もある。

生まれ育ちは阪神タイガースがキャンプを行う高知県の安芸市。「当時で寮食費なし・日当1万円(現在の3万円ほど)と聞いて、来たのがはじまり」。当時20歳だった。

<職人、濱田康>

センターツリーへ到着したのは、8時半。集合から2時間が経っていた。センターツリーとは教科書上の呼び方。山の現場では「ボッキ」という。「ボッキ、キトウ・・・ 山の神様が女だからか、山言葉には下ネタが多いんや」。

到着すると、センターツリーにロープを結わえていく濱田さん。

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再び一息つくと、濱田さんはチェーンソーを手にとった。架線の通り道を切り拓くため、架線下の木材伐採が始まる。

チェーンソーの音が山に響くと、あっという間に木が倒れた。

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その早いこと。

「めちゃくちゃうまい・・・」隣りにいる仙田さんがつぶやく。「条件のよい現場ではないんです。間伐が適切な時期に行われておらず、木が茂りすぎて、十分に育っていない。木と木の間隔が狭いので、上手に切らないと、木が地面に倒れないんです」

「手入れが技術的にどんどん難しくなり、木の値段は下がっていく。そして人を雇えなくなる。この悪循環は、どこかでストップしないといけない」

<今、山の仕事に就くこと>

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仙田さんは高校卒業後、1年を置いて、岐阜県立森林文化アカデミーへ。林業の基礎を学んだ。仕事の幅が広い中で、仙田さんは、架線出材に惹かれた。

「実家に3時間で帰れる距離で探すと、吉野が出てきたんです。日本の林業では、一番古い歴史があるところでした」

代表の下西さんと出会い、カクキチ木材商店へ就職。2年目を迎えている。

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<きつい、危険、でもたまらん>

続けて話を聞いたのが、カクキチ木材商店代表の下西洋三さん。進学でアメリカへ渡り、証券会社で5年間勤務。家業を継ぐことを決意したのち、3年間の世界旅行へ。34歳で川上村へ帰ってきた。

現場の責任者が濱田さんであるならば、下西さんは管理・経営の責任者。現在は主に経営面を手がけている。

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今回の求人募集にあたっては「“林業の現実”をしっかり伝えたい」と話す下西さん。

「『自然の中ではたらきませんか』と小ぎれいな求人募集も増えましたが、現実はきびしいことやからなぁ。自然というのは、“これ”です。雨が降って一週間仕事に出られない。ここ数年量が減ったとはいえ、雪の日もあります。ヘビも、虫も、出る。事故件数が多くかつ、怪我の程度も大きい。足を滑らせて谷まで落ちる事故も起こりえます。かと言って、かつてのように木材価値が、給与が高いわけではない。結局、好きな人しかできないのが現状だと思います」

「ですけどね、この環境。合う人にはたまらなく合うんです。一度合うと、やめられない」

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このとき、山向こうからスイスチームの「ウォッ!」という声がこだまする。つづけて「メキメキメキッ」と木が倒れていく。

「彼らも、楽しいんでしょうね」

山の仕事の特徴の一つが、人間関係にあるという。

「山の仕事は、木としゃべり、自分としゃべる仕事。おべっかはいりません。休憩時に、気の利いた冗談も言えなくていい。ただ、最低限のコミュニケーションをとれたら。仕事が順調に進むように、お互いの安全が確保されるために。もしも『架線の仕事好きやったけど、職場の人間関係で続かなかった』という人にも一度来てほしいですね。うちは割に、穏やかなほうやと思いますよ」

今回は、未経験者も募集を行う。では、どのように架線出材の技術を身につけていくのか。

<架線出材という仕事>

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再び2年目の仙田さんに話を聞く。

「僕は専門学校に通いましたが、教科書がすべての現場をカバーしているわけではありません。特に難易度の高い架線出材にふれる機会はほとんどありませんでした」

どうして架線出材をやりたかったんですか?

「架線出材は、発明だと思うんです。200年生の木を傷つけることなく、切り出すにはどうしたらいいか?先人が木と向き合い、必死に考えて、考えて、現時点での最終形態だと思います」

最終形態。

「最近では50〜80年生の木を、重機により搬出する方法も増えています。一見“効率的”ですが、長期的な検証はまだなされていないと思います。針葉樹を短期的に植え替えたとき、山の土はやせないか。また、大型の搬出重機が入るための道つけは、山に影響を及ぼさないのか。山の斜面を大きく削りとることで、土砂崩れの可能性が高くなると考える人もいます」

「架線出材が歴史ある技術だからかたくなに守ろう、と言いたいわけではありません。山の仕事は、世代を越えて行われるもの。吉野では200年生の木を切り出しています。何百年間人が自然に向き合ってきた中で、生み出された技術には、たしかな根拠があると思う」

「百聞は一見にしかずで、架線出材後の山を見てほしいです。最後に架線を外すと、ほんっとに、人の手のあとが残らないんですよ。僕は、架線出材が山本来の目的に沿っているやり方だと思います」

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そのためにも、技術を身につけていきたいという。

「とはいえ、僕もまだ2年目です。架線出材の技術を身につけるには、現場を重ねること。『こんなやりかたもあるんや』『あんな工夫もできるんや』と一つひとつ経験を積むしかない」

「伐倒するとき、木を思った方向に倒せるか。架線出材をするとき、架線周りの木を傷つけることなく出材できるか。第一線の方に直接教われるんです。技術を継承して、自分がその技術を持ってやるぞ、と思う人には千載一遇のチャンスではあると思います」

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今回興味を持った人は、まず川上村を訪ねることになります。仙田さんたちと山へ入り、1日をともに過ごすことからはじめませんか。

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<募集要項>

カクキチ木材商店
募集職種 フォレスター(山林技術者)
雇用形態 正社員
給与 日給9,000~11,000円(経験による)
福利厚生 昇給あり 労災保険あり
仕事内容 ・架線集材
・ヘリ集材/伐採
・造材
・木材運搬
・除伐を含む育林業
・その他、公共事業を含む造林業野外での作業が中心です
勤務地 奈良県吉野郡川上村内
勤務時間 7:00~16:00(11:00~12:00休憩)
休日休暇 朝から雨の日は休み/夏期休暇、年末年始/その他、地域のイベント時
応募資格 ・35歳以下(長期勤続によるキャリア形成を図るため)
・林業経験者
・未経験者ともに歓迎
・4tトラック免許保持者歓迎
・外国語に堪能な方歓迎
・川上村に移住できる方
・山が好きでたまらない方
・搬出や伐採技術を学ぶ姿勢のある方
・創造力の豊かな方
・グループ作業になるため、協調性のある方
採用予定人数 1~2名
応募の流れ まずは下記よりご応募・お問合せください

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