バスは止まっても、話は終わらない-誰もが暮らしていける地域福祉さがし-/牧絢さん/奈良県下北山村
和歌山県海南町出身の牧絢(まき あや)さんが下北山村へ来たのは2013年。4年めに入り、ようやく“なじんできた”と話す彼女に話を聞きました。
(聞き手:大越元/Kii 水本昌志/下北山村役場)
–牧さんが来たきっかけを教えてください。
大学を卒業してすぐに来たんですけども。在学中から付き合っていた人が、下北山村ではたらきだしたんです。すでに結婚を考えていたので、下北山村で仕事を考えるようになって。そのとき、ふるさと復興協力隊(地域おこし協力隊)を募集していたんです。ちょうど、やりたいことがどんぴしゃで。
–どんな分野だったんですか。
下北山村は、奈良県内でも高齢化がもっとも進んでいるところ。誰もが暮らしていける地域福祉に力を入れていきたいということでした。わたしは学生時代に福祉を学んでいて。社会福祉士(ソーシャルワーカー)の資格を取得していたんです。
0からのスタートだったんです。右も左もわからない中、老人会に顔を出すことからはじまって、人と知り合って。そうして、任意団体での草刈り応援隊をボランティアではじめて。
–草刈りを応援?
高齢になって、草刈りに困る人が出てきたんです。そこで登録制の応援隊をつくって。
今は有償でお手伝いをしています。コミュニティビジネスの仕組みで、障子張り、ハチの巣退治のお手伝い。それから、この地域でしか育てられない下北春まなの有機栽培、土曜朝市、給食センターへの出荷… ここで豊かに生きていくため、手探りで一つひとつ仕事を広げていったんです。
6月11日には、ぽこぽん図書館がはじまるんですよ。村内には図書館がないので、子どもたちが本に触れられる機会をつくろうと有志で動きだしたんです。児童図書を中心に本の寄付を募り、建物を整備しているところです。
-暮らしのことも聞かせてください。4年めに入って、どうですか。
ここ最近になってようやく、なじんできたんです。
-最初はなかなかなじめなかった?
夫からどういうところかは聞いていたし、住む前にも何度か来ていたんです。村の人はすれ違うと頭ぺこっと下げてくれるんですよ、車乗ってても。それってすごいことやなと。ええとこやなとは、思ってたんですけど。
水本)何かきっかけがあったんですか?
色んな仕事をとおして、人と関わったのが大きかったのかな。こっちではね、お葬式を地区の公民館で行うんです。準備は、婦人会でするんです。近所のおばあちゃんたちがワーッて集まってきて、みんなで、ご飯を炊いて。そういうことをやっていたらなんか・・・なかなかなじめなかったのは、何をするかわかっていなかったから。すごい不安だったんでしょうね。どういうことしたらいいかわかってきて、ようやっと落ち着いたんだと思う。
うん。だからわたしにとっては、“人”が大きいです。バスに乗ったら全員顔見知り(笑)。「こんにちは」から車内がもう。バスは止まっても、話が終わらない(笑)。なんかそれがすごい面白くて。だから、慣れるまでには時間がかかったんですけども、もしも今自分がまたどこかへ行ったら、こういうのがなくなるのか。あのお母さんのあれが食べれへんのか。そう思ったんですね。
<有償運送>
サポートきなりがNPO法人化したきっかけは、自家用車で運送を行う「有償運送」事業だったんです。
-有償運送。
下北山村の住民は、買いもので三重県の熊野市に行くんです。ところが、車の運転ができない人が買いものに困るんですね。村営の巡回バスはあるんですが、バス停から先の移動が大変なんです。坂の上の病院まで歩く、ホームセンターで買いものをしても、荷物を家まで持っていく。
そこで行きは病院まで、帰りは家の玄関まで行きましょうね、と。今は火・金の週に2日運行しています。人がいないことはほとんどないんですよ。
-これから先、導入する地方自治体は増えていくのでしょうね。実は、都会の人にとっても他人事ではないのかな。東京に住んでいたときも、近所のスーパーが閉店して、買いもの難民になるおばあちゃんがいました。
水本)下北山村は、健康保険事業においては、先進的と言われるんです。たとえば最近注目されつつある「コミュニティナース」。よく考えると、下北山村では以前から保健師さんが住民さんを訪ねてまわり、健康増進のイベントをやっていたりするんですね。
-最後に牧さんから一言、お願いできますか。
気軽に下北山村へ遊びに来てほしいです。野菜づくり、味噌の仕込み… わたしたちは色々やっています。サポートきなりへも気軽に訪ねてみてくださいね。
<トライアルステイ/下北山村>
<下北山村で出会った人>