鳥羽なかまちのチャレンジベースKUBOKURI。始める人募集
Toba chairs(トバ チェアーズ)は、三重県鳥羽市が企画する仕事紹介プロジェクトです。紹介するのは、鳥羽市在住の2人のクリエイター。最後に紹介するのは、特定の仕事ではありません。鳥羽で仕事をしたいと考える人にぜひ知ってほしい「KUBOKURI」のこと。そして、商いの後ろに暮らしがある「鳥羽なかまち」のこと。ここは、ボンヤリと迷っている人も受け入れてくれる、懐の深いまちです。
(文 鼻谷年雄/写真 佐藤創/ ロゴデザイン 勝山浩二/ 編集 Kii)
KUBOKURIでチャレンジしてみませんか
みなさんこんにちは。僕は今、「ギャザリングルームKUBOKURI(クボクリ)」の2階でこの原稿を書いています。フロアには、移動式の机が4つ。ここは、月単位での契約ができるシェアオフィスです。ネーミングはいたってシンプル。旧久保クリーニング店の店舗兼住宅を改修したから「KUBOKURI」。
まず、建物の概要を説明します。
1階は「コワーキングスペース」と「キッチンスペース」からなります。
コワーキングスペースには、全長3mの吉野杉の一枚板の長机。
この吉野杉の一枚板は、奈良県東吉野村にあるオフィスキャンプとの縁から。
この場所は、あるときはToba chairsの編集会議室に。またあるときは、「鳥羽なかまちマーケット」の会場として、鳥羽市内外からの出店者がお店をひろげます。
その奥には「キッチンスペース」。キッチンは、基本的な仕様です。業務用のガスレンジ3基、コールドテーブル、オーブン2台、流し台、冷蔵庫。10畳ほどのダイニングには、20席の椅子が並びます。
このKUBOKURIを運営するのは、鳥羽なかまちに暮らす人々です。将来お店を始めようと考えている人のチャレンジの場として、一緒に働いていただける方を募集します。
観光と交流を生む
KUBOKURIは、「鳥羽なかまち」エリアにあります。
近鉄中之郷(なかのごう)駅から徒歩3分。鳥羽3~4丁目、旧町名で中之郷、藤之郷、奥谷、赤崎の4町を含む「鳥羽なかまち」エリア。明治から昭和にかけて埋め立てられた中之郷には、造船所を中心に工場が建ち並んでいました。背後に位置する鳥羽3~4丁目は「鳥羽の台所」と呼ばれ、豆腐屋だけでも界隈に3軒が並ぶほどにぎわったそう。昭和の後半に入ると、大きな工場が移転。マイカーの普及もあって買い物客の流れは変化しました。
そして、時代の流れとともに空き家・空き店舗が目立つようになった鳥羽なかまち。
2006年に「鳥羽大庄屋かどや」が、国の登録有形文化財となります。改修を経て2013年にオープンを迎え、観光・交流の拠点として始動しました。これを機に集まった有志が、2014年に鳥羽なかまち会を発足。自身もタオル問屋を営む坂田さや香さんを代表に、地元の商店主や寺の住職など、さまざまな顔ぶれが合流しました。
今回、鳥羽なかまちの活動を紹介したい理由は「住民が動けば、まちは動くこと」を実践するから。
もちろん行政も動きます。企画の打ち合わせからともに行い、イベントの現場では、汗かき仕事を率先して行います。そして、打ち上げではひざを突き合わせて。「支援者」ではなく、同じ「住民」なんですね。
鳥羽なかまち会の活動の大きな軸となっている「鳥羽なかまちマーケット」。2019年2月までに通算22回が開催されました。
2018年度は、5月、7月、9月、11月、2月の計5回。出店者は、鳥羽なかまちの商店主にとどまりません。市内をはじめ大阪など遠方から呼び込んでいます。こうして、地元客や観光客の交流の場となる「鳥羽大庄屋かどや」に続く、まち中のにぎわいづくりが始まりました。
滞在と小商いを生む
2016年、鳥羽なかまち会のメンバーから、合同会社NAKAMACHIが生まれます。
合同会社NAKAMACHIでは、空き家・空き店舗を利活用する取り組みを開始しました。その第一歩が「KUBOKURI」です。
NAKAMACHIのメンバーは自ら、旧久保クリーニング店をリノベーションしました。
港湾事業とブルーベリー農園の2束のわらじを履く小田さんや、西念寺の筧住職が、自ら壁のペイントを行いました。壁の本棚には住民が持ち寄った書籍。ロゴを手がけたのはグラフィックデザイナーの遠藤美和さん。また代表の濱口和美さんは管理栄養士で、週に2日、ここで飲食店を開いています。
こうして、地元客や観光客の交流の場となる「鳥羽大庄屋かどや」、鳥羽なかまちでビジネスをしたい人、とくに起業者を受け入れる「KUBOKURI」が誕生しました。そして、鳥羽なかまちには仲間が集いつつあります。
探していたのは「試せる場」
仲間探しにあたり、鳥羽なかまちのみなさんが掲げたのは「試せる場」でした。
話はふたたび鳥羽なかまちマーケットに。2019年2月、通算22回目が開かれました。今回は、鳥羽市外からも、4組が出店。大阪市で割烹「花清水」を営む清水透さん(54)、るり子さん(54)の夫婦もその1組です。
この日、KUBOKURIのキッチンスペースでは、チャンポン麺が販売されていました。
12時を待たずして完売。お昼すぎ、従業員として働く清水透さんに話をうかがいます。
どうして鳥羽に?
清水 大阪で割烹を25年営んできましたが、娘が就職して身軽になりました。以前から「もっと色んな場所で暮らしたいね」と、嫁さんと話はしてて。鳥羽に地縁は全然なくて、大阪で開かれた移住相談会で、市役所の方に会ったのがきっかけです。
鳥羽の印象は?
清水 城下町で海に臨む観光地はいいなと。でも過疎化は… 商売の上で心配でした。試してみたいなと。
鳥羽は観光地です。観光客がグッと増える夏場は、どの飲食店も料理人不足だと聞いていたので。最初はバイトでもと思ってたんですが、市役所でKUBOKURIのことを聞いて。じゃあチャレンジしてみようかと。2018年8月に1ヶ月間KUBOKURIで働かせていただき、チャンポン麺を販売したんです。KUBOKURI の隣りに移住体験住宅があるので、そこに住んで。
その後は?
8月に、チャンポンと一緒に出した「サバ寿司」が好評だったんです。一度大阪に戻ってからも、月1回販売に来るようになりました。夏場は時間に余裕が持てなかったので、11月にこちらの方たちと海釣りに行きました。安楽島の沖ですかね、鯛が釣れましたよ。
今日のチャンポンには、牡蠣が仲間入りしていましたね。
清水 鳥羽市の事業者さんから仕入れたんです。2階のシェアオフィスに、卸している事業者さんが入居していて8月に知り合いました。大阪で仕込んできた鶏ガラのスープに、こっちで牡蠣の旨味を足しました。調理しても身がやせないのに驚いて。素材がいいので火をきつく入れないで、なるべく柔らかく。
鳥羽なかまちの人たちは、どんな印象?
清水 今は、鳥羽市内で物件を探しているんです。出店を通じてつながった人たちが、空き物件を紹介してくれたり、「どういう店にしたいの?」と聞いてくれたり。みなさん、前向きですね。出店にあたっては、できるだけ前向きなコミュニケーションを心がけたんです。僕は、チャレンジするほうも迎えるほうも、対等だと思います。こちらが駆け寄ると、向こうからも駆け寄ってくる。そういう鳥羽なかまちの人たちを見て、ぜひ仲間に入れてもらいたいと思ったんです。
商いの後ろに暮らしがある
鳥羽なかまちは「商いの後ろに暮らしがある」と言い表されます。
表通りの「商い」は、景気の浮き沈みや、海側の国道整備に左右されるなどめまぐるしい。だけど、その後ろにある「暮らし」は、ゆっくりと流れています。
もう少し鳥羽なかまちマーケットを歩きましょう。最後に訪ねたのは、プリンクMのアトリエ&カフェ。
店主の遠藤美和さんはグラフィックデザイナー。自身のデザイン事務所にカフェを併設し、アトリエ&カフェとして開放しています。
鳥羽なかまち会の立ち上げを率いた副代表で、合同会社NAKAMACHIのメンバーでもあります。
鳥羽なかまちマーケットのこの日は、ビールを飲む大人からベビーカーを押すファミリーまでが、代わる代わる訪れていました。
ここで美和さん。「ふらっと来れるのって、いいよね。ここに来てもらえれば、ジュースやコーヒーを飲みながら話をして。そこにまた誰かがやってきて」
実は僕も、なんでもない日にふらっと行く一人です。コーヒーを飲んでいると、美和さんがPC で仕事をする隣に、中学生の姿が見受けられます。そして、プリンクMを出ると、一本の川が流れています。まち中にあって魚の多い川、その先には海、豊かな森。
ゆっくり流れる暮らしを営みながら、「鳥羽なかまち」でチャレンジしてみませんか。