「針葉樹で、唯一無二の家具を。」studio Jig /木工職人 平井健太さん
<高校生による高校生のためのコラム、はじまります>
はじめまして。岡本輝起(おかもとてるき)と申します。17歳です。高校生活をとおして、人生に悩みに悩みまくり、今も悩んでいます。
「特にやりたいこともない僕が、どうして大学に行こうとしてるのか」
「いい大学に行っていい会社に入って、その人生ってホントに楽しいのか」
学校という世界からは見えない、色んな生き方が身近にあるのではないか。魅力的な大人たちの仕事や暮らしに出会いたくて、Kiiのインターン(ライター見習い)になりました。
高校生による高校生のためのコラム「高校生よ、はたらいてもいいんだよ。」はじまります。
「針葉樹で、唯一無二の家具を。」studio Jig /木工職人 平井健太さん
(ライター:岡本輝起 編集:大越元/Kii編集長)
500年もの歴史ある林業のむら、奈良県川上村。
吉野杉とよばれるこの村の杉を材料に、Free Form Lamination(フリーフォームラミネーション)という手法で家具をつくる木工職人・平井健太さん(33)。川上村にある工房で、話をうかがいました。
<高校、大学、就職、独立>
地元は静岡なんですね。
生まれは静岡なんですけど、あんまり地元って感じでもなくて。今は年に1回帰るぐらい。高校で東京に出たんです。
高校卒業後は?
京都の美大で、建築デザインを専攻しました。で、ゼネコンに就職したんです。意匠設計部配属になり、ビル等の設計図面を手書きで引いて、あとはCADオペさんに引き継いで。そういう生活を3年間して「これ一生はちょっと無理だな」っていうのがあって。
大学のときも建築の模型を作るのが一番好きで。やっぱ自分は手を動かして物作りをしたいんだなっていうのがあって。退職しました。
じゃあ何をつくるか。一人で建てるには、家は大きすぎる。一生続けられる仕事って考えて、スケールダウンしたら家具かなって。ほんと単純な思考回路で。
飛騨高山の職人養成学校「森林たくみ塾」に2年間通ったんです。で、就職が決まって、アイルランドっていう島国の工房で3年間はたらいて。
軽く海を越えるんだなぁ。
世界でもあんまりない家具をつくっていたんですよ。
それで日本に帰ってきたのが2016年ですね。
すぐに独立を?
最初は就職活動したんですよ。いずれは独立したかったけど、今は資金がないしなぁと思って。妻の実家で1ヶ月くらいぶらぶらしながら、親の視線を感じつつ(笑)。
でも、時間はあったから。森林たくみ塾の友人や先輩を訪ね歩いたんですよ。そうしたら、会う人会う人みんな「独立やっちゃえば?」って。
話を聞いているうちに、その気になってきて。そのときに、妻が地域おこし協力隊ってのを調べてくれて。独立起業するにはすごく良い制度だとわかった。それで、募集地域を探しはじめたんです。
地域おこし協力隊は、日本全国で募集していますよね。どうして奈良へ?
関西がいいなと思ったんです。大学在学中から、居心地良くて。居候先の妻の実家が、兵庫県の明石市だったこともあります。そこからアクセスしやすいところで、林業の産地がいくつか出て。その一つに吉野があった。
で、どうやら吉野林業というのは、すごい特殊な林業で、材料がものすごくいいってことを知って。吉野林業の中心地である川上村に絞ったんです。
アイルランドではFree form Laminationという技術で家具作りをしていたんです。日本でそれをやっている人はほぼいなくて。もし僕がこの技法で家具を作るなら、材料は針葉樹しかないと思っていたんです。
「針葉樹しかない?」
Free form Laminationでは、木材を薄くスライスした“突き板”をミルフィーユみたいに何枚も重ねて作るんですよ。
でも、広葉樹での一般的な突き板は薄く(0.3~0.6mm)、椅子に必要な20~25mmの厚さまで重ねるには、たくさんの枚数が必要になる。つまり、原材料として高いんです。厚く加工してもらうにも、どこに頼んでいいかわからないし、特殊加工となり、単価が高くなる。
その点針葉樹なら、軟らかい性質の為、最低でも1mm以上の厚みで突板を突く技術が標準としてあったんです。
それと、針葉樹使っていった方が、喜ぶ人は多いだろうなってのはありましたね。
木工はじめた頃から、ずっと聞いていたんですよ。「日本の林業がまずい」とか「針葉樹が余りまくってる」とか。けど、ピンとこなかった。「あーそうなんだ、大変だね」とは思いましたけど。家具屋って、一般的に広葉樹を使うんで。
<吉野杉だからできた>
吉野杉はまあ、びっくりします。なんか木じゃないみたい。
「木じゃないみたい?」
節(ふし)がないんですよ。普通、あって当たり前なんですけど。
節って、木の幹が太くなる途中で、枝の元の部分が幹の中に包み込まれてできたものですね。
そう。吉野杉はほんとに木じゃないみたいで、木目のプリントかなんかじゃないかって思いますね。この木の年輪見てくださいよ。1年にこんだけしか育ってないんですよ。
吉野杉の中でもかなり木を選びますか?
そうですね。大トロのなかの大トロを使ってますね。
材料費もかかりそう。
あのー、さっき広葉樹だと材料費パンクすると言ったんですけど、同じ物量のブラックウォールナットとかの角材と比較すると、モノによっては、吉野杉の方が高かったりしますね。
でも、針葉樹だったら吉野杉じゃないとダメかなって思います。僕がつくる家具は、曲げ木という性質上、曲げ部分に節があると折れてしまうんですよ。
<就職?独立?>
平井さんは就職と独立、両方経験しましたよね。どう違いました?
アイルランドでは材料も道具も揃った上で、手を動かせばよかった。でも日本では手を動かすまでが長くて。材料や設備の準備ですね。
工房は運よく、わりとすぐに借りられたんです。でも道具や資材ですね。アイルランドで普通に使っていた道具や接着剤が日本では取り扱っていない。木材もどこから仕入れたらいいかわかんない。
でも、僕しかわからないし、誰も助けてくれないから。面倒くさいなーって思いつつ、あれこれ調べては買って揃えて。独立の大変さってそこらへんですかね。
できる、って確証はあったんですか?
川上村に来たばかりのときは、正直ビビってましたね(笑)。地域おこし協力隊の採用面接時に「川上村の木材で家具をつくります」と言ったから。やるしかないんだけど、ほんとに出来るか、って。
結果、全てが良い方向に回って行ったのかなっていう感じはしますね。
椅子の背もたれの広さって、ひとつずつ違うんですか。
今はだいたい同じに出来るようになりました。これだけ自由な造形を生み出しつつ、同じものを量産出来るかが今一番のテーマで。
僕は、小中学生の頃とか家でゲームしかしてなかったんです。ドラクエに登場する、武器職人って本当にいるのかなって思ってました。
だからあれ(大量に並べられた椅子の部材)を見た瞬間、「あ、職人って現実でもいるやん!しかもRPGのイメージそのまんまやん!」って思いました。
職人って会う機会がないよね。
職人気質って言葉があるように、日本の職人は頑固っていうか、縁の下の力持ちっていうか。表に出る人じゃないから。
アイルランドでは違う?
アイルランドでっというか、ヨーロッパではもっと尊敬されていますね。子どもたちが憧れて、かつ目指せる職業。かっこいいし、しかもお金も儲かる。たとえばマイスター制度のあるドイツでは、職人の地位が日本のそれとは全然違いますね。
日本でいう職人って、特に建築業界ですけど、勉強できないから仕方なく… みたいなイメージがあると思うんですよ。僕は職人の地位を上げたいし、もっと脚光を浴びていいだろうってところに持っていきたいですね。
モノの美しさがもっとみんながわかるようになれば…
それもね、教える人がいないと。特にこの日本は右に倣(なら)えってところがあるから。「あの人が言ったから、これはいいものだ」と。
ということで岡本くん。ぜひ偉くなって、平井の椅子はいいものだと世界に言ってください(笑)。
はい!話を聞かせていただき、ありがとうございました。
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【平井健太さんプロフィール】
1984年 静岡県出身
2007年 京都造形芸術大学 環境デザイン学科卒業
2007年 清水建設株式会社 関西事業部設計部勤務
2010年 飛騨高山「森林たくみ塾」にて木工技術習得
2012年 アイルランド「joseph walsh studio」勤務
2016年 地域おこし協力隊の制度を活用し、奈良県川上村に移住
2017年 「studio Jig」開業
【受賞歴】
2017年 国際家具デザインフェア旭川 ブロンズリーフ賞受賞