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「生まれではなく、何をなすかでその人の価値が決まる社会を目指して。」特定非営利活動法人おてらおやつクラブ/安養寺住職 松島靖朗さん

<高校生による高校生のためのコラム「高校生よ、はたらいてもいいんだよ。」Vo.2>

はじめまして。岡本輝起(おかもとてるき)と申します。17歳です。高校生活をとおして、人生に悩みに悩みまくり、今も悩んでいます。

「特にやりたいこともない僕が、どうして大学に行こうとしてるのか」

「いい大学に行っていい会社に入って、その人生ってホントに楽しいのか」

学校という世界からは見えない、色んな生き方が身近にあるのではないか。魅力的な大人たちの仕事や暮らしに出会いたくて、Kiiのインターン(ライター見習い)になりました。

高校生による高校生のためのコラム「高校生よ、はたらいてもいいんだよ。」Vo.2です。

「生まれではなく、何をなすかでその人の価値が決まる社会を目指して。」特定非営利活動法人おてらおやつクラブ/安養寺住職 松島靖朗さん

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(ライター:岡本輝起 編集:大越元/Kii編集長)

日本の子ども達の、7人に1人が貧困状態にあります。お寺の住職という立場から、その問題の解決を目指す。安養寺(あんようじ)住職であり、特定非営利活動法人「おてらおやつクラブ」代表の松島靖朗さん(42)に、話をうかがいました。

安養寺は、奈良県田原本町にあります。

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<お坊さんにはなりたくなかった少年時代>

terukiicon2-01 松島さんは、いつからこのお寺に?

matsushimaicon-01 安養寺は、私の母の実家なんです。幼少時代は大阪に住んでいましたが、両親が離婚をして。小学校からここで暮らすことになりました。

terukiicon2-01 そこからお坊さんへの道が始まったんですか。

matsushimaicon-01 小さい頃はお寺の生活を子どもなりに楽しんでました。だけど、周りの大人たちから「あんたは将来、お寺のあとを継ぐんだから・・・」と事あるごとに言われ始めて。周りからは「自分自身」ではなく、「跡継ぎ」としての可能性に期待されているにすぎない。「お坊さんにはなりたくないなあ」と感じるようになりました。

<高校を2週間でやめる>

terukiicon2-01 高校進学は、どのように進路を選びましたか?

matsushimaicon-01 周りに言われるままに、浄土宗が運営する大阪の上宮高校に進学したんです。でも、このままいったら大学も京都の佛教大学にいって・・・「あかん、ホンマにお坊さんになってしまう」

危機を感じて、高校を2週間で退学したんです。

それから1年間、プー太郎生活もしましたが、15歳で社会に出てもできることは何もない。結局やっぱり高校にいこうと決めて、自分でここならという高校を選び受験勉強しました。そして入学したのが奈良市立一条高校です。

terukiicon2-01 一条高校ではどんな生活を?

matsushimaicon-01 浪人時代に、塾の先生が教えてくれたことを言われた通りにやりました。

「高校行ったら、バイクに乗って、バイトして、バンドを組む。3つのBをやったらめちゃくちゃ楽しいぞ」と(笑)。

terukiicon2-01 楽しそうですね(笑)。

matsushimaicon-01 うん、楽しかった。誰も自分がお寺の生まれなんてことを知らなくて、「自分」を見てくれる。しょっちゅう友達の家に泊まって、そのまま高校に通う生活をしていましたね。

terukiicon2-01 高校卒業後は、どうして大学へ進んだんですか? 

matsushimaicon-01 NSC(ニュー・スター・クリエイション)っていう吉本興業の芸能人養成学校に行こう思っていたんですよ。高校の文化祭で漫才やコントをしてたのね。相方と一緒にNSCに行くつもりだったけど、「やっぱり大学に行く」って。「俺も一人ではちょっと無理だな」と。

結局また久しぶりに浪人生活に戻りました。大阪の予備校に通いながら、そこで気づいたんです。

「東京の大学に行ったら、奈良から出られる」「さらにお寺から離れて普通の人生を歩める」と(笑)。

東京に行けば、もう誰からも何も言われずに生きていける。1年浪人して、大学に進みました。

<「普通」への憧れを捨てて、「ユニークな生き方」へ>

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matsushimaicon-01 ところがね、東京に行くと変な人が多くて。そういう人ほど、社会に影響を与える力を持っている。大学でも会社でも。「インターネットがこれからの世の中を変えていくんだ」っていう時代にあって、可能性を求めて起業する人もたくさんいました。

何かを始める人って、人とは違うものを持っていて。カッコいいな、自分もそういう生き方をしたいなと思った。なんだか急に「普通の人生を歩みたい」と思っていた自分がつまらない存在に思えて、「ユニークな生き方」を求めるようになりました。

じゃあ、自分の中のユニークさって何か?お寺で生まれたことでした。東京へ出てから13年、あれほど嫌だったお寺について、ようやく違う見方ができたんです。お坊さんになろう。33歳の時、決意しました。

<お坊さんになる。そして、おてらおやつクラブへ>

matsushimaicon-01 東京での仕事も無事に終わり、お寺に戻ると、檀家さんのおじいちゃんおばあちゃんがすごく応援してくれました。

「よう帰ってきてくれた。ずっと待ってた」って。

その時、ようやく自分はこの人達に育てられたんだ。お仏飯に育てられたんだ。ということに気がついたんです。

terukiicon2-01 おぶっぱん、ってなんですか?

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matsushimaicon-01 お仏飯とは、仏さまにお供えする食事、つまり「おそなえもの」のことです。

お寺では、檀家さんからいただいたお菓子や果物を、仏さまにお供えしたのち、いただいて日々生活しているんですね。

そうすると、小さい頃から「あなたはお仏飯で育ててもらってるんだから、立派なお坊さんになって恩返しするんだよ」と言われるんです。でもその頃は「そんな勝手なこと言われても・・・」「なんでこんなん食べやんなあかんねん・・・」「もっと自分が好きなもの食べたいねんけど・・・」と思っていました。

このあたりのありがたさは、お寺を出て社会の苦しみを知らなければ気づけなかったなと感じています。お寺の「ある」と社会の「ない」をつなげることで社会問題を解決しようと、活動している「おてらおやつクラブ」の原動力でもあります。

16歳で一度高校をやめて、20歳で東京の大学へ出て。自分で選んだ道、自分の力で進んだ道だと思ってましたけど、実は自分を育ててくれた多くの人の支えがあって、そういう選択肢を選べる環境が与えられていたということ。

これまでの反省と、これからどう期待に応えていこうか、という気持ち。両方がある中で、2013年におてらおやつクラブの活動をはじめたんです。

<おてらおやつクラブの活動と、その最終目標>

terukiicon2-01 おてらおやつクラブでは、「おそなえ」を「おさがり」として頂戴し、様々な事情により生活に困窮する世帯に「おすそわけ」をしていますよね。

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matsushimaicon-01 受け取るのは、孤立して、しんどい思いをしているお母さんたち、子どもたちです。共通しておっしゃるのは、「直接目には見えないけれど、自分たちのことを思ってくれている存在に心から感謝をしています」ということです。

食料支援という観点からすると、企業の余剰食糧を届けるフードバンクという活動もあります。一番の違いは、色んな人の思いが詰まった「おそなえもの」をお届けしているという点です。やっぱり人は、一人で生きているわけじゃないということです。

terukiicon2-01 松島さんが、おてらおやつクラブを通して実現したいことは何ですか。

matsushimaicon-01 社会には色々な問題がありますが、その原因が「生まれ」によるものだったとしたら、なかなか自分の努力だけでは乗り越えることは難しい。「生まれ」ではなく、「何をなすか」でその人の生きる可能性や価値が決まる社会を実現したい。

一方で、格差の問題や貧困の問題って、どんな時代でも絶対になくならないと、僕は思っています。そのとき「お寺だったら、解決の糸口が見つかるだろう」と思ってもらえるように。お寺が、人々のさまざまな苦しみを解決するための担い手であり続けたいんです。仏教は苦しみから逃れるための教えですから。

<高校生へのメッセージ>

terukiicon2-01 ユニークな生き方をしてきた松島さんから、高校生にメッセージをいただけませんか。

matsushimaicon-01 選択肢を広げる生き方をして欲しい。

そのためには、自分の可能性を信じてほしいし、時には大人が言うことを疑うのも大切です。だから今日僕が話したことも「ほんとかよ?」とぜひ疑ってほしいし、その疑問を自分が行動することで解決してほしい。

terukiicon2-01 最後に、高校生が社会を変えようとする姿勢に対して、どう思いますか。まだ社会を知らない子どもが行動を起こすのが、社会からどう受け入れられるのかを知りたくて。

matsushimaicon-01 いやいや、めっちゃ期待してるよ!

高校生は将来の担い手だし、いい意味で何にも染まっていない。若い力を使って欲しいなと思ってるし、何かご一緒できたらいいな思っています。

terukiicon2-01 はい、これからも頑張ります。お話を聞かせていただき、ありがとうございました!

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    【松島靖朗さんプロフィール】

    1975年 奈良県田原本町に生まれる

    1995年 奈良市立一条高校外国語科卒業

    2000年 早稲田大学商学部卒業

    2000年 株式会社NTTDATA 新世代情報サービス事業本部勤務

    2004年 株式会社アイスタイル 事業企画室勤務

    2008年 お坊さんになるべく実家のお寺に戻る

    2010年 浄土宗総本山知恩院にて修行を終え僧侶となる

    2012年 安養寺住職になる

    2014年 「おてらおやつクラブ」を立ち上げる

    2017年 特定非営利活動法人おてらおやつクラブとしてNPO法人化

     

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