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空き家バンクを地域おこし協力隊が3年間運営してみた。そしてこれからの道を考える/三重県尾鷲市

自己紹介

三重県・尾鷲(おわせ)市
定住移住地域おこし協力隊

名前:中尾 拓哉
出身地:京都市
年齢:33歳
任期:2017年2月〜2020年1月
業務内容:「空き家バンク・仕事バンク・体験住宅」の運営業務、移住コンシェルジュとして移住・定住のサポート

実績:尾鷲市空き家バンクの運営を担当。3年間で携わった登録件数は161件、成約件数は97件。着任当初は市役所内にあった空き家バンクの窓口を、ワンストップ相談窓口(のちにおわせ暮らしサポートセンターとなる)として市役所外に移転。それに伴い、HP・管理表・書類・業務体制を見直し。担当制導入し、現在の運用システムを構築。任期後も、NPO法人おわせ暮らしサポートセンターの一員として活躍の場を広げている。

空き家バンクとは

空き家バンクとは、地方公共団体が住民から空き家の登録を募り、空き家の利用希望者に物件情報を提供する制度をいいます。その主たる目的は、移住定住の促進による地域の活性化です。全自治体の約40%にあたる763自治体が、空き家バンクを設置しています。運用方法は、自治体ごとに様々。自治体単独・協力隊と運用・民間企業と運用などがあります。

今回は、三重県尾鷲市の空き家バンク制度を紹介します。

三重県・尾鷲市とは

東京から車で約6時間30分、名古屋から2時間30分、大阪から3時間。「近場の海外に行くより遠い」と言われることもある尾鷲市。2019年の年間降水量が日本一になるほど雨量が多く、観光名所が少ない。さらには南海トラフ地震発生時の津波の被害が予想される地域です。人口流出が長らく問題になっており、1960年には34,534人いた人口が、2018年は16,767人に。58年間で半数以下まで減り続けています。人口流出の原因は様々。地元の主要産業であった林業と漁業の衰退。市内に大学がないことなど。尾鷲市全体の高齢化率は、約40%。周辺にある漁村集落は60%を超えています。

しかし、尾鷲の空き家には魅力があるとよく言われます。空き家には地元の尾鷲ヒノキがふんだんに使われた立派な空き家が多くあります。さらに海が近く、家から海の見える家もあります。田舎暮らしの理想として、海が近い家での暮らしを求める方も多いようです。また、熊野古道が好きな方や、釣り好きの方が定年後に移住したケースもあります。

尾鷲市の空き家バンク制度について

年々増加する空き家に、景観も静かになり活気も無くなっていると町の人は話します。

2013年の空き家調査によると、尾鷲周辺地区だけで約1,000軒の空き家がありました。現在は、尾鷲市全体で2,000軒近くあるとも言われています。空き家率は、全国平均の2倍にあたる約27%。人口減少と空き家問題に取り組むべく、尾鷲市は2014年度から空き家バンク制度を運用開始しましたが、全国的には後発になります。

尾鷲市には移住者の「引越し・リフォーム・移住支援」に対する補助金は一切ありません。補助金制度で移住者を呼び込むより、「人のサポート力」で他町と差別化を図っています。そこで「新しい人の流れを作る」というミッションのもと、定住移住に関わるサポートとして地域おこし協力隊が空き家バンクを運営開始しました。

協力隊が運営するメリットは、地元の人は言葉にしづらい「外から見た魅力」を取り入れやすいこと。また、協力隊自身も都市部からの移住者であるため、移住希望者と同じ目線で相談に乗れるメリットもあります。

定住移住ワンストップ相談所の開設

2017年3月1日、おわせ暮らしサポートセンターの事務所開設

移住希望者にとって、「市役所は気軽に行きにくい」イメージを持たれていることがあります。そこで相談しやすい場所作りから始めました。空き家を扱う私たちだからこそ、市街地にある空き家を事務所として利活用することに。営業時間は18時まで、土日も営業することで、対応の幅がぐんと広がりました。

運営体制

「おわせ暮らしサポートセンター」は、立ち上げ当初も現在も、4人体制で運営しています。業務内容は、事務所の運営、市役所との連携、空き家バンク・仕事バンクの運営、体験住宅の運営、パンフレット作成等。相談件数が、月100件を超える時もあり、市役所外に事務所を構えたことで、相談件数は増えました。


定住・移住の相談件数 (2020/1/31時点)※移住フェア等のイベントでの相談件数は含んでいません。

【空き家バンクの取組み】
尾鷲市の空き家バンクはスタートして6年間で254軒の登録件数があります。全国的に見ても、かなり多いと思われる登録件数の背景には、様々な工夫があります。

①説明会
町の方々に「空き家バンク」の認知度向上や登録増加のために定期的に空き家バンク説明会を開催。

②チラシ
空き家所有者の帰省が多いお盆や年末年始前には、チラシを持って空き家にポスティングを行いました。ポスティング中に、近所の方が空き家情報を教えてくださったことがきっかけとなり、所有者と連絡を取れたこともあります。固定資産税の封筒に、空き家バンクのスタンプを押したことも。

登録件数が増えると、利用者は選択肢が増えるので成約にもつながりやすくなります。また空き家バンクを利用した成約者が増えることで、「空き家バンクを利用してよかった」という空き家所有者・利用者からの相談という循環が生まれています。登録件数を増やすための取組や工夫は常にしてきました。


・空き家バンク説明会の様子  

・様々なパンフレットも制作

③研修
しかし、こうした取り組みは、決して尾鷲独自のものではありません。おわせ暮らしサポートセンターの特徴は、次の2点にあります。市役所と目的を共有し、新しい取り組みを常に考えること。そして、研修やセミナー等に積極的に参加して空き家・不動産の知識も学ぶこと。専門性を備えたことで、親身な相談対応ができるようになりました。

④移住者同士の繋がり
尾鷲市のお祭りの時期に合わせて、移住者交流会も開催しています。移住者同士の繋がりがもっと広がればいいなと思い、出会いのきっかけの場作りを行なっています。


尾鷲市空き家バンクの実績データ(2020/1/31時点)

⑤移住体験住宅
いきなり移住と言われてもハードルが高いので、私たちは移住体験住宅の運用を始めました。滞在中に空き家や仕事の紹介だけでなく、町の案内や町の人との交流もサポートすることで、自然環境に加えて、人の良さも知っていただけたら嬉しいですし、良い部分も悪い部分も分かった上で尾鷲に移住していただけたらいいなと思っています。

尾鷲への移住準備のために

長期移住体験住宅(1〜3ヶ月) 2017年5月オープン
7組の方が利用、内4名が空き家バンクで成約(2020/1/31現在)

尾鷲の民家暮らしを1泊から体験・尾鷲に来るきっかけ作りに

短期移住体験住宅(1泊から〜)簡易宿所 2018年8月オープン
101組の方が利用、内2名が空き家バンクで成約(2020/1/31現在)

尾鷲市では、今後も移住体験住宅を増やしていきたいと考えています。

【空き家バンク担当者の3年後】

地域おこし協力隊の任期は最大3年間。その後は保障されていません。私は任期終了後も、尾鷲に残ることを選びました。その理由は「私だからこそ、まだ尾鷲でやれることがあるから」です。

そのためには3年後の収益を見据えた活動もしないといけません。

しかし、空き家バンクは仲介手数料等の料金が発生しない無料のマッチングサービスであり、収益事業化することは難しいです。もし空き家バンク制度に地域おこし協力隊の導入を検討されている自治体の方であれば、任期後は、地域おこし協力隊への業務委託まで視野に入れた導入をお勧めします。定住移住業務や空き家バンクの運営業務は行政の仕事に近いため、地域おこし協力隊の活動期間中に、3年後の収益を生み出すことはとても難しく、結果、任期後の定住にも繋がっていないと聞いたことがあります。地域おこし協力隊を次々採用して、業務を継承しても、知識や経験が蓄積されません。結局は地域おこし協力隊の使い捨てになってしまうので、お勧めいたしません。

私の場合は、空き家バンク事業の業務委託はできませんでしたが、2018年4月にNPO法人おわせ暮らしサポートセンターを仲間と立ち上げました。空き家バンクで培った知識や経験を活かした事業化はできると思い、空き家を使ったビジネスへ展開をすることに決めたのです。空き家を有効活用するためにシェアオフィス・シェアハウス・民宿・飲食店・サブリース・賃貸業を行い、収益事業を始めています。今後はさらに取り扱い物件数を増やして事業拡大して、地域おこし協力隊の受け皿を担う組織になれたらと考えています。NPO法人おわせ暮らしサポートセンターは元尾鷲市の地域おこし協力隊である木島恵子さんや豊田宙也さんも在籍しており、尾鷲市にある登録有形文化財の土井見世邸を拠点に地域おこし協力隊の募集事業やサポートを行う中間支援事業、また三重県の新任協力隊に向けた研修業務を自治体から業務委託して運営しています。

地域おこし協力隊を志望した理由、やってみた感想

2013年10月、日本国内の空き家が820万戸を超えたというニュースがありました。

私は、減り続ける人口と増え続ける空き家の社会問題に携われる仕事をしてみたいという想いがありました。日本中にある空き家を利活用したビジネスを実現することにより、日本中で活動できるのでは?と考えたのです。空き家バンクという制度で、空き家問題に取り組める人間になりたい。そのためにも、地域おこし協力隊として3年間勉強したい。その思いで協力隊になりました。

尾鷲市に来た直後は、正直に言うと次のように思っていました。「首都圏からのアクセスが悪く、観光名所も特産物も少ない。決して有利とはいえないこの地で、移住定住のミッションなんてできるのかな?」。結果的には3年間で不動産の知識、運営、利活用に関するのいろんな経験を学べて、NPO法人で活躍の場を広げることができました。これからは空き家バンクの経験を活かし、全国で苦労している空き家バンク担当の地域おこし協力隊とも連携して、一緒に問題解決に取り組んでいける活動もしていきたい。最近はそう考えています。

【尾鷲市の取り組みをより詳しく知りたい方へ】

尾鷲市定住移住地域おこし協力隊の活動、元地域おこし協力隊が運営する「NPO法人おわせ暮らしサポートセンター」の活動等、視察にてより詳しく説明させていただきます。上記には載っていない空き家バンクの細かいデータや活動拠点・空き家利活用事例の物件に見学に行くことも可能です。

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