「『意味のわからない人たち』が集う空間。」人文系私設図書館 Lucha Libro/青木真兵さん
<高校生による高校生のためのコラム「高校生よ、はたらいてもいいんだよ。」Vo.5
はじめまして。岡本輝起(おかもとてるき)と申します。18歳です。高校生活をとおして、人生に悩みに悩みまくり、今も悩んでいます。
「特にやりたいこともない僕が、どうして大学に行こうとしてるのか」
「いい大学に行っていい会社に入って、その人生ってホントに楽しいのか」
学校という世界からは見えない、色んな生き方が身近にあるのではないか。魅力的な大人たちの仕事や暮らしに出会いたくて、Kiiのインターン(ライター見習い)になりました。
高校生による高校生のためのコラム「高校生よ、はたらいてもいいんだよ。」Vol.5です。
「『意味のわからない人たち』が集う空間。」人文系私設図書館 Lucha Libro/青木真兵さん
(ライター:岡本輝起 編集:大越元/Kii編集長)
「人文学って、将来なんの役に立つの?」
「文学部、行きたいのはわかるけど、そんなとこ行ったら就職ないよ?」
僕が「文学部に進学したい」と言うと、周りの反応はこのようなものでした。
「役に立たない」ってどういうことだろう?人文科学系の学部へ進んだら、どうなるのだろう?人文科学の意味って何?
奈良県・東吉野村。コンクリートの道路で繋がった世界から、少し距離をおいた川の向こう。せわしい社会から一歩引いた場所で、「人文知の拠点」を営む人がいました。
図書館といえば、市営や町営といった自治体運営のものを思い浮かべる方が多いと思います。そうした中、2016年に夫妻で図書館を立ち上げた人文系私設図書館 Lucha Libro(ルチャ・リブロ)のキュレーター、青木真兵さん(34)に話を伺いました。
<人文学の意義>
単刀直入にお伺いします。「人文学の意義」って、なんですか。
自分や社会が、すでに「わかっている」と思っているものを、「問い直す」ことだと思います。
例えばね、みんながいい大学を目指して勉強する最大の理由は、いい会社に就職するためですよね。では、なぜいい会社に就職したいのでしょうか?
「食いっぱぐれないため」だと思います。
「その『食いっぱぐれない』って、そもそもどういうことなの?」だって「縄文時代の『食いっぱぐれない』と現代の『食いっぱぐれない』って違うよ?」みたいなことを問い直して考えるのが、文学的な素養だと思うんです。
その問い直す能力が、「役に立たない」と軽視されていると思うんです。
そうですね。文系の学問だと、法学や経済学だけが「役に立つ」という意味で「実学」だと思われている。でも、そのような「実学」、法学や経済学が役に立つのは、“平常時”だけなんです。これは僕の師匠の内田 樹(うちだ たつる)先生がおっしゃっていました。“平常時”っていうのは平和で、「おそらくこの社会システムが今後も続くであろう」と予測できる時代のこと。
一方“危機”の時代では、今の社会システムが、明日崩壊するかもしれない。例えば旧ソ連みたいに、国家が崩壊する可能性もあるじゃないですか。もしくは日本みたいに戦争に負けて、憲法が変わって国の形がガラッと変わる可能性もある。
そのような事態が起こりうると感じてる人は、法学や経済学だけが「役に立つ」学問とは思わないわけです。
今は“危機”の時代だと思いますか?
はい。変化が激しいという意味で。少なくとも、“平常時”ではありません。
それが表面化したのが、東日本大震災だと思うんです。
一つ目は原発です。地震が起こる前は、「核兵器は廃絶したい」と言いつつも、核のエネルギーで作った電気での生活にほとんどの人は矛盾を感じていなかった。
しかし福島第一原発事故が起こると、「原爆も原発も、もとは一緒のものなんだ」ということが意識されるようになりました。それからは、「安全」に対する価値観が揺らぎ続けています。
もう一つは、原発をめぐる報道。今までのメディアのあり方は、大企業がスポンサーとなることで成り立っていました。
しかし事故が起こると、そのあり方では報道できない部分が出てきました。それをきっかけに、「メディアが報道しない事実がある」とか、「メディアが嘘を言っているのではないか」とみんなが疑い始めました。今までテレビや新聞といった、大きなメディアに支えられていた価値観が通用しなくなったんです。
こういう変化が激しい時代にこそ、「問い直す力」が重要になります。
<経済の原理とは異なる価値観が生きる図書館>
ここで一つ問い直したいのです。そもそも人文学が、平常時において「役に立たない」と思われるのはどうしてですか?
社会のあり方だと思います。「お金が儲かることがすべてである」という社会において、お金が儲からない人文学は、軽視せざるをえない。
でも中には、「お金がすべてではない」という人もいるわけです。その人にとっては、どこで何をやるにしてもお金が必要なこの社会は、住みにくい。
だからこの図書館をつくりました。
「お金が通用しない場所」です。経済原理とは異なる、それぞれの価値観が生きられる場所です。
「お金がすべてではない」という人でも気持ちよく過ごせる場所が、この図書館なんですね。
そうですね。でも経済の原理に基づいた、大学や大企業に人が集まっていく仕組みは、決して悪いことではないと思うんです。
ただ、その仕組みに納得がいかない人の居場所は確保する必要があります。
居場所がないと、不満が溜まっていく一方になる。人が急進的・暴力的になったりするのは、不満が最大になったときです。フランス革命をはじめ、歴史を振り返っても明らかです。
そうなる前に、不満をガス抜きする場所をつくる。人々が暴力に訴えざるを得なくなる前に、自由を感じられる場所をつくる。
ルチャ・リブロが、誰でも思ったことを自由に言える空間になればいいなと思っています。
<どれだけ楽しんでいるか。それが最大のメッセージ>
学校の仕組みやルールに納得がいかない高校生が、たくさんいると思います。反発して、大人から厳しく止められる人もいると思います。僕もその一人です。僕らは、大人の言われた通りに生きなければならないのでしょうか。
その大人たちが主張する価値観って、本当の意味で彼ら自身の経験や考えから出たものじゃないと思うんです。結局、「世間」の価値観でしょ。
当たり前だけど、彼らが知ってる世界の中では、知らないことはない。
でも、彼らが依拠する「世間」の価値観の外で行動する岡本くんがちらちらと見えてしまう。彼らにとって岡本くんは「意味のわからない人」、つまり「他者」のような存在なんですよね。
だから怖い。怖いから管理しようとすると思うんですよ、大人たちは。
岡本くんたちは、大人と言われている人たちに、もっと外側の世界を見せてあげればいいんじゃないですかね。
具体的には、どうすればいいですか?
僕も似たような悩みをもっていた時期があって。師匠である内田 樹(うちだ たつる)先生に相談に行ったんですよ。内田先生が言ったことには、
「君がどれだけ楽しんで今を生きているか。それが何よりのメッセージになる。」
やりたいことを思いっきり、楽しそうにやる。自分で築いた、まずは自分だけの世界でも良いから、その世界で楽しそうに生きることだと思います。
<「意味のわからない人」に遭遇する空間>
ルチャ・リブロには、自分だけの世界を持った人たちがたくさん訪れます。
「意味のわからない人」ばっかりです(笑)。
でも話を聞いたり、本の感想を言い合ったり。反対に、皆さんに勧められた本を読むことで、その人たちのお互いに言っていることの意味がわかるようになる。そうして自分の世界も広がっていくんですよ。こうやってそれぞれの世界が広がっていけば、自由を感じる余地が多くなります。
意味のわからない人に「遭遇」することができる場所なんですね。
そうです!今後ともそういう人たちを呼んで、トークイベントなどをやりまくっていきたいと思っています。みんなで「自由度の上がる空間」をつくりあげていきましょう。ぜひご来館を。
はい!話を聞かせていただき、ありがとうございました!
<「高校生よ、はたらいてもいいんだよ。」を一緒に書いてみませんか>
【青木真兵さんプロフィール】
1983年 埼玉県出身
2006年 駒澤大学文学部歴史学科卒業・関西大学大学院に入学
2007年 神戸女学院の内田樹先生の大学院ゼミを聴講開始
2012年 関西大学大学院西洋史専修修了(博士(文学))
2014年 実験的インターネットラジオ「オムライスラヂオ」を開始
竹内義和さんとのプロレス・トークイベントを開始
2015年 関西大学博物館で学芸員として勤務
2016年 奈良県東吉野村に移住し、社会福祉法人ぷろぼの勤務
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