奈良で唯一無二のスピーカー職人になる/sonihouse/奈良県奈良市
ネットからは水のように音楽が流れる今にあって、一曲をじっくり聴く。
誰を思って、曲を書いたのだろう。日に何時間、演奏を重ねてきたのだろう。どんな表情で、弾いているのだろう。
1つの楽曲の間には、たくさんのことが起きている。聴くことの豊かさを教えてくれたのは、”scenery”(シーナリー)という1組のスピーカーでした。
音楽鑑賞用スピーカーの原型が発明された1914年以来、自然の音との間には「音の広がりかた」という埋められない溝がありました。
人が拍手をするとき、鳥がさえずるとき。自然界に存在する音は、球状に広がっていきます。対して、スピーカーから発せられた音は、直線状に進みます。
「スピーカーから、鳥がさえずるように音を出せないか?」
当時29歳。自身がサウンドアートの制作に取り組んできた鶴林万平さんは6年の歳月を費やし、無指向性・多面体スピーカーsceneryを開発しました。
それから7年。sceneryは日本全国に、聴く環境を育ててきました。
従来のスピーカーでは「音を届けられない」となげくミュージシャン、第一線で活躍する東京のレコーディングエンジニア、生地づくりからはじまるちょうちょの名を模したブランド。はたまた小豆島町苗羽(のうま)小でのワークショップ、京都法然院でのライブ、坂本龍一+YCAM Inter LabによるForest Symphony。
受注生産により、sceneryを手作業で製作するsonihouse(ソニハウス)。今回はじめての社員募集を行います。スピーカー製作を中心に、sonihouseの活動全般に携わる3人目のメンバーです。
応募に当たっての条件は、次の3点のみです。
・製作に関心があること
経験はあれば望ましいが、問いません
・普通自動車の運転がそこそこできること
納品・PA出張のため
・sonihouseの活動に関心があること
<募集要項>
法人名 | sonihouse |
募集職種 | スピーカー製作スタッフ |
雇用形態 | 1.正社員 2.アルバイト |
給与 | 1.月給150,000円 2.時給770円 徒歩通勤圏内で1K1万円代〜物件あり。 家を探す間、sonihouseのはなれへの滞在も相談可能です 給与は経験・能力を考慮のうえ決定/交通費支給(上限あり) |
福利厚生 | 応相談 |
仕事内容 | スピーカー製作のサポート |
勤務地 | 奈良市四条大路1-2-3(近鉄奈良駅徒歩20分) |
勤務時間 | 1.9:00~18:00(休憩時間 12:00~13:00)2.週1日以上 |
休日休暇 | 週休2日制、祝日、GW、夏季休暇、年末年始、慶弔休暇 |
応募資格 | ・sonihouseの活動に関心があること ・普通自動車の運転ができること *木工やハンダ付けなど専門的な作業に興味のある方、経験者歓迎。 |
採用予定人数 | 1名 |
応募の流れ | まずは下記よりご応募・お問合せください ↓ 書類選考 ↓ 面接(弊社にて実施) ↓ 採用(正社員は試用期間3ヶ月あり) ・応募者の個人情報は採用業務以外に使用いたしません |
従業員数 | 2名 |
<生活情報 *くわしい情報は面接時に聞いてください>
住まい | 徒歩通勤圏内で1K1万円代〜、3DK5万円以内の物件あり。 家を探す間、sonihouseのはなれへの滞在も相談可能です |
移動手段 | 移動:奈良市内在住でしたら、自転車が最適と思います。 |
2017年1月、奈良県奈良市にsonihouseを訪ねました。
近鉄奈良駅から徒歩20分ほど。三笠中学校前の交差点を曲がると、寿司屋をリノベーションしたsonihouseがあらわれます。1階が工房、2階がショールーム、3階が住居というつくり。
迎えてくれたのは、2007年にsonihouseを立ち上げた音響設計・スピーカー製作の鶴林万平さんとグラフィックデザイナーの長谷川アンナさん。
「僕は、聴くことですごい色んな体験をさせてもらった。だから、聴くことを信じてるんですよ」
サウンドアートという美術制作に取り組んできた万平さんが、多面体スピーカーの製作をはじめたのは2004年でした。2006年にスピーカーのメーカーへ就職。拠点を奈良に移します。2007年、パートナーであるグラフィックデザイナーのアンナさんと共に、「スピーカーを媒介に、音・人・空間の豊かな循環を目指す」sonihouseを開始。
活動の原点となったのが、家宴(いえうたげ)という企画です。
「自宅のリビングにミュージシャンを招き、多面体スピーカーを通して、その音に耳を傾ける。めいめいが聴くことに集中するなかで、会場に一体感が生まれてきます」
「ライブが終わるとおいしいご飯を囲んで。ミュージシャンと観客が隣りあって、すべてが言葉になるわけじゃないけど、たしかに共有していることがあって… 幸福な時間だと思うんです」
写真:麥生田 兵吾
転機は、2009年にやってきた。
「勤めていた会社の設計部門が、中国へ移ることになったんです。僕も赴任して中国でsonihouseを続けるか、それとも会社をやめて日本で活動するか」
「…日本でやろうと。で、僕にはこのスピーカーしかなかったんです」
2010年、ある人との出会いを経て、sceneryは生まれました。2004年に製作をはじめてから、6年が経っていました。
ここで「音楽、聴きましょうか」と万平さん。
聞こえてきたのは、ジャズ・ピアニストのBill Evans(ビル・エヴァンス)の「Waltz for Debby(ワルツ・フォー・デビィ)」。当時2歳のめいに捧げた1961年の楽曲だという。
曲が中盤にさしかかったころ、こんな体験をしました。目の前にピアノ、ベース、ドラムセットがあらわれ、演奏者の姿が浮かんでくる。鍵盤を弾く腕、表情、息づかい。たしかにそれらが見えた。戸惑いながら、「音って見えるんですね…?」と万平さんに伝える。
「音が見えるぐらい、1つの楽曲には、本来たくさんの情報がこめられているんです。けれども、カーステレオやパソコンの内蔵スピーカーで再現できる情報は限られている。sceneryは再現性が高いんですね。目の前に楽器が、人が現れ、演奏がはじまる。録音したその場が目の前に現れるぐらいに」
続けて、3曲を聴く。
KAMA AINAさんの「クラブ・カマ・アイナ」。イントロの汽笛に導かれるように、知らないまちの交差点に立っていた。行き交う車。犬の 鳴き音。観察するように耳を澄ますと、その情景が浮かんでくる。音楽を聴きながら、世界を一巡りしているよう。
森ゆにさんの「祝いのうた」。流れるようなピアノの旋律。この演奏までに、どれだけ弾いてきたのだろう?
最後に、アメリカのエレクトロニック・ミュージシャンTelefon Tel Aviv(テレフォンテルアビブ)の「Apparat-Remix」。聴くうちに耳が疲れてしまうことの多かった電子音楽。けれども、不思議と心地よく聞こえる。
「『自分の音を観客に届けられない』。ミュージシャンからそう聞くことがあります。sceneryをつくることは、音楽を聴く環境をつくること。sonihouseがスピーカーをつくり続けることが、ミュージシャンが音楽を続ける勇気の一部になれば、とは思います」
ミュージシャン:鈴木昭男+evala 写真:麥生田 兵吾
国内外からの問い合わせも増えていく中、スピーカー製作を中心に手がける人を探している。
万平さんはバーチの積層合板カット、スピーカーユニットの組み込み、天然蜜ろうワックス仕上げまでを一貫して手作業で行う。一人でつくれる数は多くない。まずはアシスタントとして、製作をサポートしてほしい。
ここで万平さんから。
「イベント風景やsceneryは、はなやかに見えるかもしれないけれど。工房は木くずが舞う環境だし、体力使うし、冬寒く、夏暑い。一人であれば生活はしていけるけれど、はっきり言って給料は安いです」
応募の条件は、車の運転ができること。
「sceneryは納品先を訪ねて、空間に合わせて設置まで行います。それから、イベントやワークショップでsceneryを使うときは、出張に出て、PAオペレーションも行います。機材運びがあるので、移動手段はもっぱら車。免許があって、そこそこ運転できる人に来てほしいんです」
ここで、アンナさん。自身がグラフィックデザイナーとして書籍の出版も手がけてきた人。現在はsonihouseの広報、事務、問い合わせ対応などを幅広く行っています。
「sonihouseの活動は、スピーカー製作が中心にありつつ、家宴をはじめイベントも行います。PAオペレーションのサポート、写真撮影、WEBやSNSに掲載する記事作成… できればsonihouseの活動全般に取り組んでもらえたらうれしいです」
よかったら、sonihouseのFacebook/Instagramも見てください。スピーカー製作、音の場づくりと同じくらいに、伝えることにも力を入れていると思います。
これから働く人には、少しずつ仕事を覚えてもらい、ゆくゆくはsonihouseに欠かせない人になってほしいと考えている。2人からは「できれば、長く共にsonihouseを育てていってほしい」という声も。はじめての社員募集ということもあり、お互いに戸惑うこともあるかもしれないけれど、条件、仕事の分担など、遠慮せずに話し合ってみてほしい。
万平さんは一時期、製作方法の公開を検討していたそうです。一人で製作できる数が限られている中、「音楽を聞く環境の多様性を増やしたい」という思いから。特許も申請しているし、さすがに周りに止められたそうですが。それぐらいに、聴くことを信じているのだと思う。
もしあなたが「聴くこと」の可能性を1ミリでも感じていたら。じっくりと腰をすえて、追求できる環境だと思います。百読は一聞にしかず、と言います。まずは2人を訪ね、sceneryの音を聴いてみてください。
(写真と文 大越元)
<4週にわたってsonihouseさんを紹介。記事はこちらから>