人口3万人の地方都市だから、見られる夢がある-和歌山の高校生に伝えたいこと-/桒木千乃/アスカフューネラルサプライ/和歌山県新宮市
毎年約300人が卒業する新宮高校。卒業生の大半が新宮を出ていく。桒木千乃(くわき ゆきの)さんは同級生にたずねてみた。「なんで外、出ていくん?」
医療事務の仕事を目指していた桒木さんは、新宮で仕事をつくりたいと考えはじめている。
高校生のみなさんにも、すでに社会人のあなたにも読んでほしいです。
–よろしくお願いします。桒木さんは新宮生まれ?
そうです。2週間前の5月1日にアスカへ入社したばかりです。
–アスカで働きはじめたきっかけ、聞かせてください。
高校のときは、看護師になりたかったんですけど。ちょっとつまづくことがあって、夢半ばであきらめたまま卒業しました。4月からは、市内のイタリアンレストランでアルバイトをしながら、ユーキャンで医療事務の資格を取ろうと思っていたんです。
アルバイト先に、代表の田中さんがお客さんとして見えて。接客する中で、一度話を聞きに行くことになったんです。
新宮市内でおろうと思っていたんです。そんなとき、田中さんが「うちおいでよ」って言ってくれたんで。ある種すくわれたというか、助けていただいた。
–もともと葬儀の仕事を考えていたんですか?
最初声をかけていただいたときに「アスカはサービス業だよ」「アスカを、サービス業のアップル社にしたいんや」と。お客さんに接する上で、大切にしていることを聞いて。業種よりも、サービスに対する姿勢に共感をしたんです。
田中さんは人よりちょっとアツめで(笑)。色々考えた上で、ついていきたいな。わたしもがんばろうと思って。
–もしも、田中さんが別の業種だったらどうでした?たとえば、ウェディングの会社を経営していたら。
ウェディングに行っていたと思います。
田中)(ふらりと現れて)アップルって、だまされたんだよね(笑)。
合ってましたよ(笑)。
–桒木さんは今、どんな仕事をしていますか?
先輩について、葬儀場での流れを学ばせてもらっています。まだ全然、日々勉強です、はい。
田中さんからは「2年後に一人で葬儀を任せられるよう、しっかり勉強してほしい」と言ってもらいました。
– Facebookの記事投稿も手がけているんですよね?
はい。家族葬ホールで開いたフラワーアレンジメント教室のレポート、市内の建設会社さんとの合同社員研修、5月にできたばかりの新社屋紹介。“アスカの日常”をテーマに、紹介しています。
–「葬儀以外に、こんなこともやってるんだ」って新鮮でした。
あ、ほんとですか!ありがとうございます。そのことを伝えられたらと思っているんです。
まだまだ言葉が足りなかったり、勉強不足な面もあるんですけれど。田中さんに「今、新人だから書ける視点をがいいんじゃない」と言ってもらいました。
–今後、仕事で取り組みたいことはありますか?
違う業種の事業者さんとも協力して、何かできたら素敵やなぁ。アスカの名前をもっと広げていけたら。葬儀業の枠をこえて。
–葬儀の枠をこえて。
全国を見渡すと、カフェを運営されている葬儀社さんもあります。『負けてられないな』とつよく感じるので。ちゃんと利益を出しつづけられる形でつくっていけたら。
チームワークのあるサービス業が素敵やなと思うんです。誰か一人が率先するより、会社のみんなで形にしていけたら。社内の雰囲気は、お客さんにも伝わると思うんです。日ごろから自然体でサポートし合える仲間、関係。
お客さんに対しても、はたらく仲間に対しても、人に何かを“してあげる”というより、気づいたら誰かを“支えたい”と思ってる。これからはたらく人も、そうやったらいいな。
<新宮のこと>
–まちのことも、聞かせてください。桒木さんにとって、新宮はどんなまち?
18年住んでいますけど、まだ知らないことのほうが多いんです。それを知りたくて「おろう」と思ったのもある。
わたしらの実家があるとこは、お隣さんにおそうざい分けて持っていって、お返しを倍ぐらいもらったりして(笑)。近隣の人とのコミュニケーションが、ふだんからある。新宮はまちがコンパクトにつまっています。近くに商店街もあるし、生活は歩きで足りる“まちなか”なんですけどね。
田中)(ふたたびふらりと現れて)いやなところは?
ふだんの生活はいいんですけど、大阪や名古屋へ行くときの移動ツールがぜんぜん、まだまだ。大阪までは電車で4時間。その時間をもっとうまく使えたらいいのにな、と思いますね。
–「大阪・名古屋へ行きたい」とは思わなかった?
最初は思ってました、高校2年生ぐらいまでは。でも、自分のふるさとも知らんのに、外出てもいいとこ見れんかなと思ったんです。まずここを知ってみたい。
社屋から見える神倉山。毎年2月6日には、御燈祭が行われる。
紀南には大学がないこともあって、高校を卒業すると大半が外に出ていくんです。同級生に「なんで外、出ていくん?」聞いたんです。ほとんどが「いや、ここ、なんもないやん」という答えやった。
逆に、都会から来た人の中には、「宝の山やん」とすごく楽しそうな人もいます。なんもないということはないと思うんです。
逆に質問ですけど、大越さんは東京から来て、どうですか?
–これが僕のふるさとです。
東京の新宿というところ。ここに「なんでもある」かはわからないんですけど。18歳のときは、出たくてしかたがなかったです。今は、どこにいるかよりも、自分がどう過ごしているかだと思う。都会に行ったからみんな何か見つけたり、楽しんでいるとも限らなくて。
わたしは、自分の住んどるまちを理解してから、外に目を向ける道もあると思うんです。田中さんが、「卒業して新宮ではたらく道もいいじゃん」と話していて。
葬儀業界って、全国にヨコのつながりがあるんです。毎年、仙台や沖縄で勉強会も行われます。田中さんが「仕事を通して、色んな世界を見てほしい」「自分でキップ買って、電車乗って、西新宿のビルにたどり着くのも一つの勉強だよ」と話してくれて。
–そうだなぁ。
奥に見えるのが田中社長。
–この先、アスカフューネラルはどこを目指していくんだろう。
田中さんがよく「まち(新宮市)に頼られる企業になりたいね」と言うんです。
–頼るんじゃなくて。
そうです。生活に足りないものや、まちあったらいいものをただお願いするんじゃなくて、まちと一緒につくっていく。2階の窓から見える新宮の風景が、ちょっとさびしくて。「カフェはじめようか」って田中さんと話していたんです。
ここにも、きっと夢はある。
同級生や、後輩たちにも伝えたいです。「あるから大丈夫だよ」って。
–考えてみれば、今の新宮も、色んな人の仕事でつくられてきたんですよね。話を聞かせてもらい、どうありがとうございます。
こちらこそありがとうございます。ごゆっくりしていってくださいね。
<アスカの人>
(聞き手・写真と文:大越元)