三重県尾鷲市の「地域おこし協力隊現地見学会」に参加して
12月初めの週末、尾鷲市の「地域おこし協力隊現地見学会ツアー」が行われました。
尾鷲市の地域おこし協力隊の活動に興味がある方たちを対象にしたこのツアー。
「尾鷲って?」「地域おこし協力隊って?」そんな疑問から「協力隊になりたいです」といった声を実際に活躍している現地を訪れ、協力隊に出会い、話を聞くことで、その活動内容と暮らしを知ってもらいたいという想いから実施されました。
この記事は、当日の都合が合わず見学会に参加できなかった方々にも尾鷲の魅力を届けたいということで書かせていただきました。
<ツアー・1日目>
この日の参加者は7人。
東北、関東、東海、関西とさまざまな地域から参加者が集まった。ほぼ全員が尾鷲を訪れたのは初めてだと言う。
尾鷲駅では、定住移住地域おこし協力隊の中尾拓哉さんと尾鷲市役所の野田憲市さんが出迎えてくれた。
「ようこそ!尾鷲へ!」
早速、長旅の話で盛り上がりを見せ、打ち解けた雰囲気に。「尾鷲って暖かいですね〜」とコートを脱ぐ姿もあった。ここからは車で移動し、早田(はいだ)町へと向かう。
尾鷲市内には市街地のほかに7つの浦があり、9つの漁村集落が広がっている。早田町はその中でも、人口130人ほどの最も小さい集落だ。
山道を車で20分ほど走ると、海が見えてくる。山と海が重なるリアス式の風景に「すごくいい景色ですね」と参加者は車から見える自然豊かな景色に気持ちを踊らせているようだった。集落へと続く一本道を降りていくと、早田漁港に着く。
早田町は、大型定置網漁がさかんな漁師町。
早田町地域おこし協力隊の青田京子さんの案内で、まずは船で沖に出てみることに。
この日は、早田町に移住し漁師として働く半田直巳さんが船を出してくれた。
波が穏やかで、船の上では、ひんやりとした風が気持ちいい。
10分ほど沖に出たところで、半田さんが船を止めた。
「ここが僕の職場です」
そこは、大きな網が海中にしかけられている、早田の漁場。早田の漁師さんたちは、毎朝ここで網を引き上げて、かかった魚をとる。
網を持ってみなければ、その日どんな魚がどれだけ獲れるかわからない。
「毎朝それを市場でどきどきしながら待つんです」と言った青田さんはなんだか楽しそう。
「海からこんな綺麗な景色を見られてすごく感動しました!」と参加者が声を上げると、半田さんも「僕も毎日感動しながら仕事しています」とのこと。
もう少し水深が浅いところに船を進めると、海底が見えるほど水が透き通っている。
「夏になると、泳ぐこともできますよ」と半田さん。
山から流れ込む養分をたっぷりとふくんだ豊かな海。小魚の群れが光を反射させながら泳いでいく。
船を降りると、次は青田さんが早田の町を歩きながら案内してくれる。
「ここは早田町で唯一の民宿です。ここには名物おばあちゃんがいて、『みつこおばあちゃんのおせち』でYouTubeに投稿されたりしていますよ」
早田町に来て1年半ほど経つ青田さんは、この町の暮らしにすっかりなじんでいる様子。
「早田町は、優しい人が多いです。重たいものを運んでいると何も言わずにすっと運んでくれる人がいたり、『今日のおかずやろう』と魚をくれたり」
まち歩きのあとは、コミュニティセンターに場所を移し、募集中の早田町地域おこし協力隊の活動内容を聞いた。
区長の山本久記さんは「若い人の力を借りたい。早田の人は声をかけたら、助けてくれる親切な人が多い」と話す。
早田町の協力隊は、町に雇用をつくることを目指して設立された「合同会社き・よ・り」の仕事を中心に取り組むことになる。
仕事の内容は、鮮魚の通販や移動販売・情報発信など多彩。まだまだ余白がたくさんあって、自分で新しい仕事をつくっていくこともできそうだ。
参加者から「まず早田町の協力隊に着任したら、どんなことから始めるんですか?」と質問があった。
「私の場合は、最初の1ヶ月は、漁協の購買に座りながら仕事させてもらいました。そうやって、買い物に来る町の人たちと話して、顔や名前を覚えてもらいました」と青田さん。早田町に暮らしながら、この町の人や暮らしを知っていく。そこがスタート地点になる。
「一人で知らない土地に飛び込んで仕事や暮らしのことを相談できる人とかはいますか?」との質問も。
「町の人、市役所の野田さん、協力隊メンバーやそのほかにもたくさんの相談にのってくれる人がいます」と青田さん。
誰かに相談し、一緒に考えてもらえる環境があることは、とても心強いことだ。
早田町地域おこし協力隊となった場合、早田町に住むこととなる。毎日豊かな海を目の前に暮らしながら、仕事をする。きびしいこともあるけれど、ここには人の温かさがあり乗り越えていける環境があるのだろう。
次に尾鷲の市街地に戻り、「おわせ暮らしサポートセンター」へ。
築85年になる立派な古民家を定住移住地域おこし協力隊の活動拠点となる事務所として活用している。
「去年までは市役所の中が事務所だったのですが、お客さんのことも考えてやっと事務所を開設できた」と定住移住地域おこし協力隊を2年半経験している木島恵子さんが想いを語る。
定住移住地域おこし協力隊は4人の協力隊でおわせ暮らしサポートセンターとして活動している。尾鷲への定住や移住を促進する業務を「空き家」「仕事」「移住」「DIY」といった切り口から、さまざまな事業を進めている。
漁業や林業で栄えた尾鷲には市街地以外の9つの漁村集落だけで約1,000軒以上の空き家がある。尾鷲の空き家には日本農業遺産にも認定された尾鷲ヒノキで建てられた、立派な古民家も多い。
私たちは、そうした空き家を活用する事業を展開したり、移住を考える人たちに向けた情報発信やイベントを行ったりしている。
「尾鷲は町ごとに人の気質や文化、方言も違います。その全域を知ることができるおもしろさがあります」と木島さん。
これからNPOとして法人化し、さまざまな事業の展開を進めていく予定。
今募集している協力隊は、そのスタートアップから関わることができる。
「やりたいことがあれば、新しい事業に組み込むこともできるので一緒に考えていきましょう」とのこと。
参加者からもたくさん質問が出たりと楽しい時間が一瞬で過ぎていく。
1日目の夜は、九鬼町に移動。移住を考えている人が最大3ヶ月間借りて尾鷲での暮らしを体験できる移住体験住宅「みやか」が懇親会の会場に。
この古民家も長年空き家だった。DIYワークショップを繰り返して修繕することで移住体験住宅として使用できるまでになった。
早田町で水揚げされた8.3kgもある天然のぶりがまるまる1匹届き、青田さんが参加者の目の前で解体ショーをしてくれた。
「生で捌くところ初めて見ました」「今までブリは切り身しか見たことないです」「ブリってこんなに大きいんですね」と参加者の方々も目を輝かせて見学していた。
青田さんも着任当時は「魚の名前も全然知らないし、魚を捌いたこともなかったけれど、町の人に教えてもらいながら、少しずつ覚えました」と笑いながら話してくれた。
日本3大ブリ漁場でも知られる尾鷲のブリは黒潮にのって山の栄養分もたくさん吸収した小魚を食べて育っているからとにかく美味しい。刺身、ブリしゃぶ、海鮮丼、煮付け、塩焼き、味噌汁などに料理されて、参加者に振る舞われた。
他にも、漁村でしか食べられないムロアジの刺身やなめろうや、 アオリイカの刺身など食べきれないほどの料理が食卓に並んだ。
関東在住の参加者が「実は生魚が苦手なんです。でも今日は自分がこんなに刺身を食べているなんてびっくりです。お箸が進むんですよ」と早田で獲れた鮮魚の美味しさに驚きを隠せないでいた。
懇親会では尾鷲で活動している8名の協力隊が加わり、協力隊のこと・尾鷲のことを美味しい料理とお酒をかわしながら話す機会となり、にぎやかな夜になった。
尾鷲市梶賀町地域おこし協力隊の浅田克哉さんは「尾鷲の協力隊はミッション型で決められたミッションがあります。でも発想は自由でいれる、好きな方法や方向から取り組めるんで、やりがいもあって楽しいんです」「今の尾鷲市長の名刺も僕がデザインさせてもらいました」と今の尾鷲での仕事ぶりについてやりがいがあると紹介した。
「ミッションをやりながらでもちゃんと自分の時間は持てるので、その時間は副業や自分の将来や3年後にやりたいことにも取り組めるんですよ」と定住移住地域おこし協力隊の鈴木教平さんが自身でやっている活動について参加者に熱く語っていた。
定住移住地域おこし協力隊の早川あやさんは、尾鷲の協力隊では最年少の25歳。
「実は私は2年前の尾鷲の協力隊の選考で落選したんです、それでも尾鷲の『人』に魅力を感じて再度受けるために、職業訓練で勉強し、自分の武器を持って去年再挑戦して協力隊の道を掴み取ったんです」と尾鷲への気持ちを話した。
協力隊として活動する人たちは、みんな個性豊か。のびやかに自分のやりたいことをやっているように見える。
それでいて月1回は協力隊が集まる定例会を開き、情報共有を行い、おたがいに悩みを相談したり、手伝いを頼んだりすることもあるという。
「尾鷲の協力隊は協力隊同士の仲がよいんです」と協力隊の皆さんが話していた。
尾鷲市役所で地域おこし協力隊の担当をしている野田さんの存在も大きい。協力隊の中尾さんは、「『こんなことがやりたい』と伝えると、野田さんは『やれい』と背中を押して、親身に相談にのってくれる。具体的な話が進むから、活動しやすい環境だと思う」という。
知らない土地に一人で飛び込むのは、不安かもしれない。でも、尾鷲に来たら、きっと一人じゃない。協力隊のまわりには、相談相手になる仲間や応援してくれる地元の人たちがいる。そんな不安を解消してくれる懇親会となった。
<2日目>
2日目のスタートは、九鬼町のまち歩き。
昨日遅くまで盛り上がった懇親会に、参加者はさぞかし眠そう・・・
と、思いきや、日の出前から漁港に水揚げを見学に行った人もいるらしい。
九鬼町を案内してくれるのは、大阪大学の下田元毅先生、関西大学の宮崎篤徳先生の二人。
「近世以前からある道の事を僕たちはヒューマンスケールと呼んでいます。要は車のない時代からある道のことで、人の尺度でつくられている路地ですね。そういうヒューマンスケールの路地が多く残っている町なんです」
お二人の説明を聞きながら歩くと、町のかつての暮らしや人々の祈りが浮かび上がってくる。漁村を建築の視点から研究するお二人は、定住移住の協力隊が立ち上げるNPOのメンバーにも加わる予定とのこと。多様な視点から漁村と出会うことができそうだ。
このツアーを企画した中尾さんは、去年同じような見学会に参加したことがきっかけで、尾鷲の地域おこし協力隊に応募したそうだ。
「尾鷲の親切な方々やのびのびと活動している尾鷲の協力隊に魅力を感じた。その時、体験したことを同じように感じて欲しいから今回の見学会は私自身で企画したんです。」「協力隊の応募を考えている人は、ぜひいろいろな地域を見てほしい。きっと尾鷲のよさがわかると思う。尾鷲の人の魅力、土地の魅力で人を呼びたい」。
野田さんも「みなさんにとっても、大切な3年間。協力隊の人には自分らしい働き方、自分らしい生活を大切にしながら、意味のある3年間を過ごしてほしい。今回応募しないとしても、せっかくの出会いなので、またいつでも遊びに来てください」と話す。
お昼は、尾鷲市協力隊OBの豊田宙也さんが九鬼町で地元の人たちと運営する「網干場(あばば)食堂」へ。
おいしいお昼をいただいて、2日間のツアーもいよいよ終わり。
最後に見学会の参加者に感想を聞いてみました。
「協力隊応募の前に、町の雰囲気・現隊員方の活動や今後の取り組みなどを知ることができ、現地に来ることで着任後の生活をイメージしやすかった」「尾鷲の魅力をいっぱい知りました。とても楽しかったし、参加してよかった」「協力隊の活動を知る機会と、尾鷲とはどんなところか知る機会になってよかった」「見学会への参加を迷っていた自分がバカでした(笑)。とても充実し、いい意味で尾鷲のイメージが変わりました」「働く人、町の人、漁協の人、大学の先生と、地場感、歴史をよく、広く教えていただけてよかった」
参加者はそれぞれ「来てよかった」と話す。参加者同士が連絡先を交換する場面もあり、さまざまな交流の場になり縁が広がったようだ。
最後に中尾さんと野田さんから。
「協力隊の募集に繋がればと思ってイベントを実施していましたが、みなさんから『来てよかった』『尾鷲が好きになりました』『もう尾鷲ファンです』と言っていただけてそれだけでもう満足です(笑)」と参加者以上に楽しんでいたかもしれないと話す。
ここで生まれたご縁が、それぞれの未来につながっていきますように。
こうした協力隊現地見学会は、来年度も開催されるそうです。
<最後に>
定住移住地域おこし協力隊の中尾さんは「いつでも相談乗ります」と個別での対応もしてくれるとのこと。
尾鷲に興味が出た方は是非尾鷲に足を運んでみてはいかかでしょうか?
尾鷲市では現在地域おこし協力隊を募集しています。